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「……なに?」
アンディはそっけなく聞いた。
最初にセスの呼び掛けを無視したのは、セスが声を掛けてくる時は、大抵なにかしらの面倒を押しつけられるからだ。
結局、無意味な抵抗ではあったけれど。
「ああ、ちょっと、おまえに頼みがあるんだよ。」
セスはいつも通り意地の悪い笑みを浮かべ、偉そうな態度でアンディを見下ろして言った。
アンディは、やっぱり、と思った。"頼み"なんて、嫌な予感しかしない。
「別に、大したことじゃない。ただ、そっちの掃除が終わったら、次は廊下の窓拭きをやっておいてもらいたいんだ。」
「なんで? 廊下は、きみとコナーの持ち場だろ。」
「おれ達には、これから大切な用事があるんだよ。なぁ、コナー?」
セスは斜め後ろのコナーを振り返る。コナーは相変わらず、猫背のおどおどとした様子で、「ああ、そ、そうさ。用、用事があるんだ。」とうなずいた。
アンディは、心の中で舌打ちする。
用事なんて言っているけれど、セスの目的は街の女の子に会いに行くことだ。最近は服屋で下働きをしている子がお気に入りらしく、彼が度々、孤児院の掃除や手伝いを他の子に押しつけて、街へ遊びに行っているのは知っていた。だが、そんなのアンディの知ったことではない。
セスがどこに行こうがどうでもいいけれど、掃除を代わるなんてごめんだ。
だから、アンディははっきりと言ってやった。
「なんの用事かは、知らないけどさ。どうしておれが、きみ達の代わりをしなきゃならないんだ。自分の持ち場は、自分でやるべきだろ。」
アンディは視線を床に戻す。箒をさりげなくセスの方へ動かして、早く行ってくれと心の中で呟いた。
けれど、セスはそんなアンディの冷めた返答が気に入らなかったんだろう。
靴で思い切り床を叩いて、苛立ちのこもった声で言い返してきた。
「いいから、おまえがやるんだ。チビのくせに、生意気な口を利くな!」
その言葉に、箒を動かす手が止まる。
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