ダーツで勝負

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ガタゴト、電車の音。 車内アナウンス風にエフェクトかけて、無機質っぽく話す。 「次は、立川、立川。お出口は左側です」 多少の雑音。 ガタゴトから、プシューとドア開く音。 靴音。 男子(高校生)の声。 「あれ、みちる? おー、久しぶり」 みちる(大学生)の声。 「おー、タクヤ。久しぶり。ガッコの帰り?」 タクヤ答える。 「制服見りゃわかんだろ。つか、みちるも帰り?」 ドサッと座り荷物置く音。 電車ガタゴト発車。 みちる。 「これからバイト。正確には、バイト帰りでバイトに向かう途中」 タクヤ。 「大学は? 行ってねーの?」 みちる。 「高校生にはわかんない色々があんのよ。もしかしたら辞めちゃうかもしんない」 タクヤ。 「いじめか?」 みちる。 「そうゆうんじゃないけどね。居づらくなってて」 タクヤ。 「わかった。失恋だろ」 みちる。 「コメントは差し控えます」 タクヤ。 「ああ、もういいや。わかった感じだから」 踏切音。(フェードインからのフェードアウト) みちる。 「誤解されてる気がしないでもないけど、まあいっか」 ガタゴト。 タクヤ。 「今何聴いてんの? そのイヤホン」 みちる。 「がっつり暗いやつ」 タクヤ。 「へえ。ちょっと聞かせてみ?」 衣擦れの音。 みちる。 「あー、イヤホンドロボーっ」 タクヤ。 「誰の曲?」 みちる。 「タクヤの知らない人。お母さんが好きなんだ」 タクヤ。 「昭和っぽい」 みちる。 「昭和だもん」 タクヤ。 「タイトルは?」 みちる。 「伝わりますか」 タクヤ。 「情念を感じる」 みちる。 「そりゃそーよ。でも刺さる」 タクヤ。 「みちるはだれを想って聞いてんの?」 みちる。 「そうゆうんじゃないって」 タクヤ。 「俺じゃないよね?」 みちる。 「ありえない」 タクヤ。 「俺じゃダメ?」 みちる。 「なにが?」 タクヤ。 「なりふりかまわぬ恋の相手」 みちる。 「ないでしょ」 タクヤ。 「もうガキじゃないよ」 みちる。 「いつまでも幼なじみの男の子」 タクヤ。 「変えてやるよ。最愛の男に」 みちる。 「ありえないから」 ガタゴト。 タクヤ。 「じゃあさ、ちょうど今、お試し期間中だから、無料で試せば?」 みちる。 「途中解約は可能ですか?」 タクヤ。 「契約を結ぶ前なら」 みちる。 「お試しは何日間ですか?」 タクヤ。 「俺が告るまで有効」 みちる。 「んー、考えとく。本気で勧誘するなら、メリットないとね」 ガタゴト。 タクヤ。 「寂しい夜はなくすよ」 みちる。 「毎日寂しいよ」 タクヤ。 「じゃあさ、バイト終わったら遊び行こうよ」 みちる。 「どこに?」 タクヤ。 「俺の部屋」 みちる。 「やなんですけど、見え見えで」 タクヤ。 「とりあえず聞きに来いよ」 みちる。 「なにを?」 タクヤ。 「俺の告白」 みちる。 「ムリ」 タクヤ。 「なんで?」 みちる。 「それがわからないうちは、まだまだ子供ってことよ」 タクヤ。 「お試しする?」 みちる。 「まあ、とりあえず、明日試してみてもいいけど」 タクヤ。 「デート?」 みちる。 「するかどうかを、ダーツで勝負するの」 タクヤ。 「じゃあ、契約するかどうかも一緒に勝負しよう」 みちる。 「私、ガチで勝ちに行く」 タクヤ。 「なら、俺は価値ある勝利だな」 みちる。 「カッコいいとこ見せてよね」 タクヤ。 「任せろ。なんたって俺はみちるのことを手に入れるんだから」 みちる。 「バカみたい。なんで私なんか」 ガタゴト。 タクヤ。 「その答えは、明日な。本気で勝ちにこいよ。その方が俺も嬉しい」 みちる。 「私は勝ちたいから勝つんだよ」 タクヤ。 「それが自分の首を締めるってこと、教えてやる」 みちる。 「イヤホン返して」 タクヤ。 「ああ。明日から、もっと明るい曲を聞くはずだ。…という魔法をかけといた」 みちる。 「魔法が効くかどーかは、ダーツ次第だなあ」 タクヤ。 「その日のために俺はダーツ練習してきたんだ。なんたって前に進むためにさ」 ガタゴト電車音。 きらきらしながら、テーマソング入れてフェードアウト。 おしまい
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