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「おそらくな……。さあ、早死にしたくなかったら早くここを出なさい」
それっきり祖母は口を閉ざしてしまった。そして、早く外へ出ろと指で合図する。僕は黙って、それに従った。
扉が閉まる直前、最後に一度だけ人形のほうを懐中電灯で照らしてみた。
人形の顔がかすかに動き、ニヤッと僕に笑いかけたような気がする。
僕が人形から目をそらしたところで、祖母が扉を閉めた。
祖母は何も言わず家の中へと入っていったが、僕は蔵の扉の前で呆然と立ち尽くしていた。
とても不気味な経験だ。もう二度と、この蔵には入りたくない。
それにしても、あの人形の笑った顔……。あれは本当に僕の気のせいだったのだろうか。
そして祖母はなぜ、あんな呪われた人形をこの蔵にしまっておいたのか?
もういい。人形のことは忘れよう、忘れるんだ、忘れるんだ……。
僕は何度も自分にそう言い聞かせて、蔵の前をそっと離れた。
あれから二十年経つが、僕の身に何事も起こっていないのをみると、呪いの話は祖母の作り話だったのかもしれない。
約束を破り、勝手に蔵に入った孫に腹を立てて、とっさに話をでっち上げたのだろうか。
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