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愛あればこその哀ならば。
「ん、んん……」
思わず、呻き声のようなものが漏れてしまう。毎年同じことをしているのに、ちっともうまくなる気配がない。
鏡の中では、ひどいしかめっつらをした私が映っている。なんとも醜い顔だ。
ややチークを入れたすぎたような気がする、と淡い桃色になったほっぺを見る。眉毛だって、バランス良く書けていないような気がしてならない。
今年はつけ睫毛はやめることにしたものの、アイシャドーは少し凝ろうと決めたのに。青いものにするか紫がかったものにするかで悩んだ末、結局いつもと同じ茶色系に落ちついてしまった。我ながら保守的だ。この日のためにせっかく色々買い揃えたというのに。
口紅はどうだろう。彼は、もっと落ち着いたピンクの方が好きなのではないか。塗ってみたら想像以上に赤味が強かった。けばけばしくて気持ち悪いと思われたりしないだろうか。
はっきり言って、彼に嫌われることを想像したら倒れそうになるほどなのだけれど。
「……ねえ、私のお化粧、変じゃない?」
後ろに控える女中に声をかける。
「髪の毛も。今回はちょっとだけ茶色に染めてさ、ウェーブかけてみたんだけどどう?テレビのアイドルっぽくして見たけど、似合ってなくない?」
「そんな事無いですよ、お嬢様。とてもよくお似合いですし、お可愛らしいです」
「……まあ、そうよね。あんたはそう答えるしかないもんね」
まったく無意味。私がため息をつくと、女中は曖昧に笑った。まあそりゃ、雇い主の娘に“不細工ですよ”なんて言えるはずもない。彼等は此処を追い出されたら行き場なんてないのだ、どれだけ不満がったところでイエスマンになるしかあるまい。
――ああ、もう何やってるんだろ。
リビングには手料理も、それから今日のために用意した様々な娯楽の道具もばっちり揃えられている。
全てはこの特別な一日を盛りたてるために。
――せっかく、今年はあの人に会えるのに。
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