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今日も男子たちとゲームの話をしている優吾くんは、心底楽しそうだ。
話題は最近発売したゲームの話。あたしも知っている。〝ヘッドとレッグ〟のニ種類があって、あたしはヘッドを買ってもらった。お兄ちゃんはレッグを持っている。
厚めの本を開きながら、聞き耳を立てた。どうやら優吾くんはレッグの方を買ってもらったらしい。
そして、周りの友達もみんなレッグ。
仲が良くていいことだ。
「あー、マジ、ヘッド持ってる奴いねーの? アイテム交換したいんだけどー」
「俺兄貴からもらったぜーっ」
「マジか?! いーなぁ、くっそ、俺も兄貴ほしいー」
地団駄を踏みながら叫ぶ優吾くんに、みんなが笑う。
あたしもレッグのアイテム早くほしいな。
お兄ちゃん、普段ならすぐにあたしの要望に応えてくれるくらいに優しいんだけど、今は全然応えてくれない。理由はちゃんとある。今週がテスト期間で、部屋に篭るとその間は食事、トイレ以外ではほとんど出てこなくなるから。交換するタイミングがない。声もかけづらい。ましてやゲームの話だし。
そんなに欲しいなら、あたしのと交換してほしいよ。
視線をきちんと本の文字へと正して読み始めると、目の前に誰かの気配。
名前を呼ばれて、心臓が飛び跳ねた。
「四ノ宮さん」
顔を上げずとも、声の主が分かってしまうのは、さっきまで聞いていた声と一緒だから。
「昨日ランドセル、ありがとう。助かったよ! 俺忘れっぽくてさー」
あはは、と聞こえてくるけど、優吾くんの顔があたしには見ることが出来なかった。俯いたまま「ううん」と首を振る。
「じゃ、また」
すぐに去って行ってしまった優吾くんは、友達の輪の中に戻っていた。
素直にお礼を言ってくれる優吾くんは、やっぱり礼儀正しい勇者の様だ。
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