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数日後、天気予報通りに学校の帰る時間と共に雨が降り出してきた。
みんなが当然のように持ってきている傘を、きっと優吾くんは忘れたんだろう。
日直で帰りの遅くなったあたしは、ひとりぼっちで空を見上げる優吾くんと昇降口で鉢合わせた。
お気に入りのブルーの水玉模様の傘は、大きめだった。それを傘立てから取り出すと、あたしに気が付いた優吾くんが駆け寄ってくる。
「四ノ宮さんの傘、大きめじゃない? それさ、俺も一緒に入れる?」
「……え?」
満面の笑みであたしの傘を眺めながら言われて、心臓が飛び出そうになった。
それって、一緒に一つの傘に入って帰るってことだよね?
混乱するあたしを差し置いて、優吾くんはあたしから傘を取ると、ポンっと広げた。
「おっ! やっぱデカいっ。はい」
傘をまじまじと眺めてから、差し出してくる。
〝入れ〟と言っているんだ。
身長差はほぼゼロに近いあたしと優吾くん。だけど、少しだけ背伸びをしたように歩き出す優吾くんに、思わず笑みがこぼれてしまった。
「なんかおかしかった?」
「……う、ううん」
「まさか降ると思わないよなー、あんだけ晴れててさ」
「いや、今朝の天気予報で午後から降水確率、百パーセントって言ってたよ?」
つい、当たり前のようにそう突っ込んでから、ハッとしてあたしは恥ずかしくなってすぐに俯いた。
「……まじ? 天気予報見るの忘れたー」
だからみんな傘持ってたんか。とブツブツ言う優吾くんの背中には、今日はランドセルがある。
商店街を歩いていると、今日話題に上がっていたゲームのポスターがデカデカと貼られているのを見つけた。優吾くんが立ち止まってしまうから、あたしも一緒に足を止めた。
「あー、やっぱヘッドのゴールドアーマー欲しいなぁ」
視線の先のアイテムに呟く姿を見て、あたしは勇気を振り絞った。
「あ、あの、あたし、持ってるよ」
「へ?」
キョトンと、なにが? と言うふうにこちらを見てくる優吾くんとは、近すぎて目を合わせられない。
「あ、あたし、ヘッド、持ってる……」
消えそうなくらい、か細い声で呟いた。
「マジか?! 俺レッグ持ってんだよ、武器アイテム交換しようぜ!」
キラキラと雨がホログラムのように煌めきだした。優吾くんの満面の笑みに、あたしは嬉しくなって何度も頷いた。
再び歩き出した優吾くんは先ほどから歓喜に沸いている。レベルがアップしたようにその周りは光輝いて見えた。
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