わすれんぼうの勇者くん

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「学校に持ってくのはちょっとなー、四ノ宮さん、俺とフレンドなってくれない?」  ゲーム機内で交流出来るフレンド機能。  まさか、優吾くんとフレンドになれるとは思ってもなかったあたしは、夢中で頷く。 「俺んちあそこだから、ちょっと寄ってよ。コード教えるから」 「え、あ……」  数メートルを残してあたしに傘を手渡すと、パシャパシャと走って行ってしまった。  優吾くんのお家は、商店街の中にある古くからある本屋さん。文房具や駄菓子、学校用品なども置いてあって、小学生には必要不可欠なお店だ。  あたしも何度も来たことがあった。  傘を閉じて外に置かれている傘立てに立てると、重たいガラス扉を押した。 「いらっしゃい」  優吾くんのひいおばあちゃんがレジ横の木の椅子に座って微笑む。小上がりになっている場所にブルーのランドセルがひっくり返って置かれていて、ドタバタと足音が響いてきた。 「こら! ゆうくん静かにしな、お客さんきてるから」  重たそうに腰を上げて、ひいおばあちゃんは優吾くんを叱る。 「大丈夫だよ! 俺の友達! 四ノ宮さん、こっち上がって?」  笑顔で手招きする優吾くんに、あたしは「お、お邪魔します」とひいおばあちゃんに頭を軽く下げると、靴を脱いで小上がりに上がった。  ランドセルから自由帳と筆箱を取り出して、持ってきたゲーム機を見ながらコードを記す。 「はい、これ俺のだから。帰ったらさっそくやって。待ってる」 「……う、うん」  ビリッと無造作に破かれた自由帳の一ページの端はギザギザだ。だけど、そんなことは気にしない。 「じゃあまた明日なっ」 「うん」  雨は先ほどよりも強さを増していた。だけど、大きな雨粒や真っ黒な雲が広がる空とは正反対に、あたしの心は晴れ渡っていた。  次の日、学校で優吾くんがニコニコと笑顔で声をかけてくれた。 「四ノ宮さん、フレンドコード入れてくれた? 昨日待ってたけど全然通知来ないからさ、やり方わかる?」  あたしは強張って肩をすくめた。 「……ごめんなさい。交換、出来なくなった」 「え、なんだよそれ」 「昨日、帰ったら、お兄ちゃんが勝手にあたしのヘッドからアイテム交換済ませてて……だから……あた、し……ごめ……なさ、い……」  溢れてくる涙を堪え切れずに謝った。  本当は交換したかった。  それなのに、昨日家に帰ったらあたしのゲーム機がなくて、珍しく早く帰ってきていたお兄ちゃんがいた。
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