わすれんぼうの勇者くん

5/6
前へ
/6ページ
次へ
『遅くなってごめんなー、やっとテスト終わったから、早速アイテム、(まい)にも送っといたから。確認してみて!』  嬉しそうに優しく笑うお兄ちゃんがそこにいて、本当なら、「なんであたしの確認も取らないで勝手なことするの?」って言いたかった。  でも、お兄ちゃんはいつだってあたしに優しいんだ。アイテム交換は、テストが終わったらすぐしてやるからなって、言われていた。  だから、仕方ない。  仕方ないけど、優吾くんと交換がしたかったのに。  涙が次から次へと溢れ出して、止まらない。 「わ?! なんでそんな泣くんだよー。別に俺怒ってねーから」  あたふたとし始めた優吾くん。  悲しくて、悔しくて、湧き上がってくる涙を止めることが出来なかった。  先生が泣いているあたしに気が付いて、優吾くんが怒られている。  優吾くんは悪いことなんて何もしていないのに。  あたしが泣いてしまったから、先生が勘違いをして怒っただけだ。  保健室で呆然として座っていたら、気持ちが徐々に落ち着いてきた。  コンコンとドアがノックされて、そこから顔を出したのは優吾くんだった。 「大丈夫か?」 「あ……うん」 「なんで泣いたんだよ?」 「だって……アイテム交換……出来なくなっちゃったから」 「なんだよー、ほんとにそれだけ? 別にフレンドにはなれるでしょ? もっと他にもそれぞれにしかないレアなもん、たくさんあんだよ!だから、今日帰ったらちゃんとフレンド登録しとけよ! じゃあな」 「え……あ、うん」  あたしが頷くのも聞かずに、優吾くんは保健室から駆け出して行った。  わざわざ、様子を見にきてくれたんだ。  優吾くんと、フレンドなれるんだ。 「……ふふ」  心の中がほんわか、あったかくなる。くすぐったい様な不思議な気持ち。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加