4人が本棚に入れています
本棚に追加
日直の仕事を終えてあたしは誰もいなくなった教室をぐるりと見渡した。
綺麗に並んだ机、その一つにブルーのランドセルが乗っかっている。
縁は白いステッチで脇にはドラゴンと盾のエンブレムの模様が付いている。
「かっこいーだろー? 勇者優吾の勲章だぞ」
背負ったランドセルを見せびらかすように得意げに笑う、クラスメイトの姿を思い浮かべた。
桜田優吾くんはクラスの人気者でいつもみんなの真ん中にいる明るくて誰にでも気さくな子だ。
小学校入学式の時に、優吾くんが友達とランドセル自慢をしあっていたのを思い出す。
その立ち振る舞いは、本当に勇者のように勇敢で、何事にも臆することなくやり遂げてしまう性格をしているのを、あたしはずっと見てきた。
まだ親しく話した事はない。いつも読んでいる物語の主人公、強くて優しい勇者が彼にはピッタリだとあたしは勝手に思っている。
あれから四年。
あたしと優吾くんは五年生になっていた。
ランドセルの前まで来ると、窓の外から聞こえてくる声に振り向いた。
「じゃあまた明日なー!」
「ばいばーい!」
校庭を散り散りに去って行く男子たち。
背中には黒や緑、それぞれランドセルを背負っている。
あたしは優吾くんを見つけ出して目で追った。
その背中には、何もない。
颯爽と飛び跳ねるように走っていて、そのまま校門を抜けて、あっという間に見えなくなってしまった。
「先生、忘れものです」
学級日誌と共に手にしていたブルーのランドセルを、担任の水木先生へと差し出した。
「……え? ランドセル忘れたやついたの?」
「桜田くんです」
あたしが放った名前に、先生はガックリと肩を落としてため息をついた。
「あいつ、何回目だよ。学校に何しに来てんだか」
小言を言いつつも、「ありがとう」と微笑んで、先生はランドセルを受け取ってくれた。
何回目って。ランドセル忘れるとか、そんな頻繁にあること?
宿題とか連絡帳とか、持ち帰らないと困るものたくさんあるのに。
優吾くんは宿題を忘れても、親にプリントや連絡帳を見せなくても、毎日楽しそうに笑っている。
最初のコメントを投稿しよう!