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「その石には、我々マヌ人に繁栄をもたらすための魔法が、封じこめられている。
魔石は本来四つあったが、長い時の中で多くの人の手に渡り、今では我が国には一つしか残っていない。ほかの三つは散り散りになり、その中の一つは関係のないチタニア人の手にある。
だが四つの魔石の正当な持ち主は、マヌ王国の君主──つまりこの私だ。だから私に返せ」
王はそう言って、ぎらついた目つきで手を差し出した。その指先の一本一本に、針のようにとがった金の爪がついている。
ララはその場で身構え、断固拒否した。
「何万年も前のことなんかわかりません。今はママのものです」
土地や宝石のように、ずっと昔からあるものは、長い時間の中で次々と所有者が変わるものだ。
第一、何万年も前には今のマヌ王は生きていないはずだし、『もともとは自分のものだった』なんて言い分はどう考えても変だ。神話に語り継がれていることが事実だという証拠はどこにもない。
「ティミトラは私の臣下だ。臣のものは、君主のもの。あれがここにいたら、私に石を献上しているはずだ」
「そんなのおかしいです。ママのものはママのものです。王様のものじゃありません」
「盗人め。クレハを殺した挙げ句、奪ったものを返さんというのか?」
「殺してないし、奪ってなんかいません」
「正直に言え」
「言ってます!」
王ははなから疑ってかかっている。言いあっているうちにも勝手に疑いを深め、どんどん目尻がつりあがってくるのがわかる。
ララは王から目をそらしたくなるのを堪え、毅然とした態度を貫き通した。
「おまえはレネの兵器と神王の玉座の伝説を知っているか?」
うなずくと、マヌ王はまた根も葉もない神話を語りだした。
「四つの魔石は、レネの兵器を動かす鍵だ。いずこかに隠された神王の玉座と、その石があれば、古の兵器を意のままに操ることができる。どんな理由があろうと、そんなものをおまえたちに持たせておくわけにはいかぬ。おまえの母親にもだ」
なんと言われても、強要されて石を差し出すつもりはなかった。
その話が真実だったとしても、カラスの言うようにペテンの小道具にすぎなかったとしてもだ。
「私は頼んでいるのではない。命令しているのだ。最初から断るという選択肢はないのだよ」
王は威圧的に言い、ララが従うための時間を与えた。
ララはもう一度後ろを振り返った。
そこではカラスが磔になったまま、ぐったりうなだれている。声は出ず、うつむいているせいではっきりとは確認できないが、何か口を動かしてつぶやいているようにも見えた。恨み言でも言っているのかもしれない。
「もう一度命令する。石を渡せ」
ララは黙って王をにらんだ。
〈その娘から石を取りあげろ!〉
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