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兵士たちは一瞬躊躇して王を振り返ったが、すぐにララを仰向けに倒して、二人の兵士が両手両足を押さえつけた。
必死に身をよじろうとするララの隣で、もう一人の兵士が、感情の消え去った従順な目つきで、刀の柄に手をかける。
カラスの顔から反抗心が消え、一気に青ざめる。
「お許しを!」
〈………!〉
カラスが叫んだのとほぼ同時に、マヌ語で別の声がした。
「お待ちください、陛下」
アシュラムが恐れ多い様子で、王の前にひざまずいた。
王は明らかに不服そうに、
「どういうつもりだ?」
ララに配慮したのかアシュラムがトゥミス語で話しかけたので、王もトゥミス語だった。二人ともマヌ人だが、トゥミス語で話しつづけることはなんの苦でもないようだ。
「出すぎたまねを致しまして恐縮ですが──娘は確かに罪人に違いありませんが、この場で裁判も取り調べもなしに死刑では性急すぎます」
「クレハを殺したのなら、裁判などしなくても刑は決まっている。ましてや命令に背き、謝罪もなしでは酌量のしようもない。そこの男は衛兵に危害を加え、私を欺こうとした」
「お怒りはごもっともです。しかし、まだクレハ様は亡くなられたと決まったわけではありません。事実なら許しがたい大罪ですが、今はクレハ様の安否がまるでわからない状況なのです。
この娘の母親のティミトラは、国と陛下のために戦った戦士でした。どこの誰ともわからないならず者ならいざ知らず、陛下に忠義をつくした者の娘の腹をいきなり裂くとは、不義というものではございませんか? 魔石を取り出すだけならほかにも方法があるはずです」
アシュラムは殺気だつ王にむかって、冷静な面持ちで根気強く説明した。
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