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アシュラムが進言を終えると、老人はここぞとばかりに反論した。
「陛下の判断を不義と思う者などいません。事情はどうであれ、娘が火を放ったのは事実。クレハ様に怪我がなくても、その行動だけで十分反逆罪に値します。男の無礼も許しがたいもの。即刻処罰すべきです。
陛下の臣下だったのはティミトラで、彼らではないのですから、この二人はただのならず者です。
近頃はイェルサーガ(※国王直属暗殺部隊)の働きもいまひとつで、国中どこにテロリストが潜んでいるかわかりません。一昨日はボナ村の井戸に毒がまかれ、昨日は街道にかかった橋が破壊された。
そして今日は警備の手抜かりで、あろうことか宮殿の監獄塔が爆破されました。彼らが最初から自らの身元を偽って、反逆の意図を持って陛下に近づいたのではないと、どうして言い切れるでしょう?」
「陛下の暗殺を計画するような者なら、もっとましな嘘をつくでしょう。彼らがテロリストだと言うのは、早合点だと思いますが」
アシュラムに早合点と言われ、老人も侮蔑をこめて言い返す。
「あなたの眼力が当てになるとは思えませんな、近衛隊長。宮殿で爆破事件が起こったのはあなたの責任だ。警備以外のことにうつつを抜かして、本来の役職がおざなりになっているのではありませんか? 宮殿の警備を青二才が担っているのかと思うと、生きた心地がしません。はたしてこんな大失態をした彼に、正しい判断ができるのでしょうか?」
「できます。これまでの成果を思い出していただければわかるはず」
「ティミトラの娘というのが本当でも、娘一人で軍全体の志気が下がるほど、彼女自身に人望があったとは思えません。女性だし、この国の人間ではないし、信仰心も欠けていた。武家の出身でもないし、我々マヌ教徒とは考え方も価値観も違います。
所詮は金目当ての傭兵。我々にとっては理由のある戦いでも、彼らにとっては略奪目的の殺戮でしかありません。報酬さえもらえれば、誰に仕えて誰を殺そうとどうでもいいのです。そして傭兵とはそれを商売にしている最低の人種なのです」
これを聞いて、アシュラムは憤然と立ちあがり、声を荒らげた。
「ティミトラはすでにヴァータナ軍の正式な部隊長に任命されています。そうなる前にも後にも、多大な戦果をもたらし、何人もの仲間の命を救っている。今の発言は私たちに対する侮辱だ! 兵士たちはあなた方のために、日々命をかけて戦っているのに、そのねぎらいの言葉がそれですか」
文官の格好をした高官たちの反応はそっけなかったが、近衛兵たちはシャンタンに嫌悪の眼差しをむけていた。
隊長に命令されれば、すぐにでも襲いかかりそうだ。
「シャンタンよ」
と王は老人に呼びかけた。
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