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「ティミトラをイェルサーガの隊長に抜擢したのは私だ。おまえのもの言いでは、まるで私に人を見る目がないようではないか」
シャンタンはうろたえた。
「そんなつもりでは……! 彼女は殺人兵器としては有能です。それはいいのです。間違った人選ではありません。私が言いたいのは……」
「よく覚えておけ。女だろうと外人だろうと、私がマヌ人だと言ったらマヌ人になるのだ。ティミトラはマヌ人だ」
王はそう断言したあと、その発言を自省するかのように、しばらくむっつり顔で、二人の罪人を交互に見比べていた。
カラスは緊迫した表情のまま額に冷や汗をにじませ、ララは服が着崩れてほとんど半裸の状態で仰向けに押さえつけられている。兵士につかまれている脚が、無意識のうちに小刻みに震えだしていた。泣きこそしなかったが、恐怖で瞳孔は開きっぱなしだ。
玉座に座った生き神は、そんな下等生物の愚かな有様を見ながら熟考しているうちに、気勢をそがれてしまったようだ。それとも権力を行使して屈服させたことで、少しは気が済んだのかもしれない。
「長々と口喧嘩を聞かされたせいでやる気が失せた。すぐに殺したら罰をあたえる楽しみもないしな」
小さくそうつぶやいたあと、兵士たちに放すよう命令した。
ララは自分の格好に気づいて、慌てて服を整えた。
王は平坦な口調で、
「近いうちに罰をあたえる。それまでは母親の功績に免じて、反省する時間をあたえてやる。だが次に無礼な口をきいたら、そこの男の命はないと思え」
と言い渡し、カラスには、
「おまえもだ。今度やったらおまえでなく、娘を殺す」と言った。
「この愚か者どもの事は、近衛隊長に任せる」
アシュラムはまたひざまずいて、深々と頭をさげた。
老人は露骨に嫌そうな顔をして、半ば脅しのような口調で王に囁きかけた。
「生かしておいてもなんの得にもなりません。隊長は芝居じみた振る舞いで、本当に議論すべき論点をずらしました。この場でどうすることが陛下にとって一番利になるか、もう一度よくお考えになってください」
王はハエにたかられたような疎ましげな表情で、シャンタンの忠言を無視して命じた。
「行け」
「失礼します」
アシュラムは勝ち誇った笑みを浮かべることなく、引き締まった表情のまま立ちあがった。振り返って部下たちにマヌ語で迅速に指示を飛ばす。
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