5章 反逆者

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〈そんな無茶な! 死刑が決まってても、死刑執行の日は司法庁から通達されてるし、勝手になんてできませんよ。どうしても一級でなけりゃだめなら、ほかの囚人を二級に移し替えないと。そのためには司法庁の許可が必要なんです。それに近衛兵殿は、塔の使用許可証もお持ちでないようだし。司法庁で必要な書類を作って、もう一度お越しいただけませんか?〉 〈つべこべ言ってないでやれ。これは最優先事項なんだ。陛下が直々にこの囚人に関する全権を、近衛隊長に委ねた。司法庁の許可は必要ない〉 〈近衛隊長に? なにかあったんですか?〉 看守は怪訝(けげん)そうな顔をして、また探るような目で囚人をじろじろ見た。 カラスは、兵士と看守が押し問答しているあいだ、これから料理される家畜のような顔をしていた。 〈よけいな詮索(せんさく)はするな。おまえはとにかくこいつを一級房にぶちこんで見張ってればいい。司法庁がなんて言ってきても、俺たちの指示なしに勝手なことはするなよ〉 〈ですが……〉 〈司法長官に逆らってもクビになるだけだが、陛下に逆らえば、本物の生首になるぞ〉 看守はぞっとして、固唾(かたず)を飲んだ。 〈承知しました。なんとかします〉 カラスは、兵士から看守へ引き渡された。 看守は、横柄な近衛兵らが行ってしまうのを見届けると、重厚な造りの両開きの扉の奥に囚人を押しこめ、内側からかんぬきと鍵をかけた。 ざらついた石壁にかかった松明(たいまつ)の火が、壁際に並んだ黒ずんだ鉄の足枷(あしかせ)や、さまざまな形の拘束具を、がらんとした闇の中にひんやりと浮かびあがらせていた。 窓は通気孔程度にあるだけで、高い位置についた小さな四角い穴に、鉄格子がはまっている。 部屋の中央の床だけ円形に少しくぼんで、排水口と水瓶があり、真ん中に古びた椅子が二脚置いてある。その真上の天井からは鉄の手枷がぶらさがっている。 奥には階段とドアがあって、ドアのむこうにもう一部屋ありそうだ。 戸締まりが終わって振りむいたとき、看守の顔つきが豹変(ひょうへん)していることに気づいた。 いいほうにではなく、悪いほうにだ。 へりくだった愛想笑いが、そのまま悪意の塊のような嘲笑に変わっていたのである。
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