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〈そんな無茶な! 死刑が決まってても、死刑執行の日は司法庁から通達されてるし、勝手になんてできませんよ。どうしても一級でなけりゃだめなら、ほかの囚人を二級に移し替えないと。そのためには司法庁の許可が必要なんです。それに近衛兵殿は、塔の使用許可証もお持ちでないようだし。司法庁で必要な書類を作って、もう一度お越しいただけませんか?〉
〈つべこべ言ってないでやれ。これは最優先事項なんだ。陛下が直々にこの囚人に関する全権を、近衛隊長に委ねた。司法庁の許可は必要ない〉
〈近衛隊長に? なにかあったんですか?〉
看守は怪訝そうな顔をして、また探るような目で囚人をじろじろ見た。
カラスは、兵士と看守が押し問答しているあいだ、これから料理される家畜のような顔をしていた。
〈よけいな詮索はするな。おまえはとにかくこいつを一級房にぶちこんで見張ってればいい。司法庁がなんて言ってきても、俺たちの指示なしに勝手なことはするなよ〉
〈ですが……〉
〈司法長官に逆らってもクビになるだけだが、陛下に逆らえば、本物の生首になるぞ〉
看守はぞっとして、固唾を飲んだ。
〈承知しました。なんとかします〉
カラスは、兵士から看守へ引き渡された。
看守は、横柄な近衛兵らが行ってしまうのを見届けると、重厚な造りの両開きの扉の奥に囚人を押しこめ、内側からかんぬきと鍵をかけた。
ざらついた石壁にかかった松明の火が、壁際に並んだ黒ずんだ鉄の足枷や、さまざまな形の拘束具を、がらんとした闇の中にひんやりと浮かびあがらせていた。
窓は通気孔程度にあるだけで、高い位置についた小さな四角い穴に、鉄格子がはまっている。
部屋の中央の床だけ円形に少しくぼんで、排水口と水瓶があり、真ん中に古びた椅子が二脚置いてある。その真上の天井からは鉄の手枷がぶらさがっている。
奥には階段とドアがあって、ドアのむこうにもう一部屋ありそうだ。
戸締まりが終わって振りむいたとき、看守の顔つきが豹変していることに気づいた。
いいほうにではなく、悪いほうにだ。
へりくだった愛想笑いが、そのまま悪意の塊のような嘲笑に変わっていたのである。
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