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看守はカラスを椅子の上に立たせると、自分ももう片方の椅子に立ち、手錠を外さないまま天井から下がっている手枷につないだ。
そして猿ぐつわを外して自分は床に降り、相手が立っている椅子を思い切り蹴倒した。
足場がなくなるとつま先が宙に浮き、鉄の手枷に体重がかかって手首が痛い。
囚人が身動きとれなくなるのを見届け、看守は鍵束を懐にしまってタバコを引っぱり出した。腫れぼったい唇にくわえて、剛毛の生えた指で軽くはじくと、先に魔法の火がつく。
それからくつろいだ様子で、優越感たっぷりに、歯を食いしばってぶら下がっている囚人をながめた。自作の剥製に惚れ惚れする狩人のようだ。
〈ようこそ、チタニー。この塔の中には結界が張ってあって、ここでは俺しか魔法は使えない。なんでも俺の決めた規則通りにやってもらう。逆らったら罰をあたえる。こんな風に……〉
看守はそう言って、いきなり棍棒で腰を打った。
カラスが思わずうめいてしまうと、看守は満足げにつづけた。
〈刑は決まってないようだが、政治犯はだいがい死刑だ。でも喜べ。すぐに俺が生きているのが嫌になるようにしてやる。ここにいるあいだに死刑が待ち遠しくなるぞ。死の恐怖を克服できる。ありがたいだろ?〉
「………」
カラスは言葉が通じないふりをした。〝チタニー〟というのは、チタニア人の蔑称だ。
〈俺が話しかけてんだから答えろよ? 『ありがとうございます』って言え〉
看守は気に喰わなそうに、タバコの火を囚人の脇腹に押しつけた。服がこげ、下の皮膚も焼かれて刺すような激痛が走る。
それでも黙りを決めこんでいると、ようやく、
〈なんだ、しゃべれねえのか。おもしろくねえ〉と舌打ちした。
ものわかりの悪い奴だ、と思った。
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