5章 反逆者

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看守は風呂と称して、カラスを全裸にした。 ズボンは手枷につながれたままでも脱がすことができたが、上に着ているものはそうはいかないので、ナイフで引き裂かれてしまった。そのとき刃渡りの長いナイフが、背中まで軽く切り裂いてしまった。 看守はカラスの裸を見て言った。 〈なんだ、おまえ? 傷だらけだな。一つ傷が増えても気になんねえや〉 看守につけられた傷以外にも、背中には焼けた鉄棒を押しつけられた古い火傷の痕があった。 それ以外にも、胸や腹、腕や太ももなどに、昔ナイフで切りつけられた小さな傷痕がいくつもある。普段服を着ていると見えにくい位置だ。 風呂は水瓶からくんだ水をぶっかけるだけで終わった。熱帯夜なので冷たくはないが、新しい傷にはしみる。風呂が済んだあとも、ずぶ濡れのまま、なかなか服を着させてもらえなかった。 〈痩せてるし、色白だ……。チタニーだから白いのは当たり前か〉 好色そうな目つきでつぶやき、看守はカラスの腹を手でなであげた。気色悪くて鳥肌が立つ。 〈でも、変な病気持ってそうだ〉 汚いものを触ってしまったように顔をしかめて、看守はパッと手を放した。 そして今度は脱がせた服をあさりはじめた。 荷物は王に謁見する前に女官に取りあげられてしまったが、まだ金を入れた巾着だけはズボンの内側に隠し持っていた。案の定めざとくそれを見つけられてしまい、巾着の中身をのぞかれた。 旅行資金はほとんど底をついて、中には三万シグしか残っていない。毎日野宿したとしても、あと一ヶ月もたせるのがやっとだ。 ララにこれ以上ティミトラ探しはできないと言ったのは、そのせいでもある。が、魔の森に帰るにも、やっぱりこれだけでは金が足りない。 これまで無駄に贅沢などしていないし、当初の予定では往復できるほど充分な旅行資金があった。なのに足りなくなってしまったのは、ここに来るまでに予想以上に時間がかかってしまったからだ。 一人旅で急げば三ヶ月でも行ける距離なのに、ララと一緒だと何だかんだで五ヶ月もかかってしまった。十三歳だし、女の子だから仕方ないのだろうが、歩くのが遅いし、すぐバテる。 野宿より宿に泊る方が多かった。慣れない旅で何度か体調を崩して、医者に診せにいったりもした。それにも金がかかった。 自分なら医者の所になんて行かずに寝て治してしまうが、ララだとそういうわけにはいかないのだ。 〈シケてるな〉 看守が巾着を逆さにして手の平の上で振ると、硬貨と一緒にペンダントが転がり出た。 ユニコーンの角だ。 旅のあいだ一回も身につけず、巾着の中に入れっぱなしだった。
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