5章 反逆者

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〈なんだこれ?〉 汚らわしい指が、聖なる生き物の角のかけらをつまみあげる。看守は宝石かなにかだと思ったようだ。 〈これは全部入居料としてもらっとくぜ〉 そう言って金を(ふところ)に入れ、あろうことかユニコーンの角を首にかけた! 「返せ」カラスはトゥミス語で言った。 言葉は通じなくても、なにをどうしろと言っているのかは、察したようである。が、 〈んんー? トゥミス語じゃ、なんて言ってんだかわかんねえなあ? 俺にプレゼントしてくれるってえ?〉 看守は角のかけらをカラスの目の前でぶらぶらさせた。 〈返せって言ってんだよ。オカマ野郎〉 我慢ならずにマヌ語で言い返すと、オカマ野郎に棍棒で何発も殴られた。 〈しゃべれんじゃねえかよ。この野郎!〉 痛みとともに、怒りがこみあげてくる。 なんで俺ばかりこんな目にあわなければならないのか? 俺が一体なにしたっていうんだ? 野盗に襲われたときは、身を守るために必要だったから、やり返しただけだ。謁見(えっけん)の間から逃げようとしたときだって、コソ泥みたいなクソ国王に言いがかりをつけられて、いつ処刑されてもおかしくない状況だった。伯父に殺されそうになったときだってそうだ。 やりかえさなければやられてた。どいつもこいつも、やられて当然の奴らだ。呪いをかけられた奴らも。 なのにどうして俺ばかり責められる? 世の中には汚いことをして、のうのうと生きてるクズもいる。 真面目に実直に生きていて、ただ運がいいってだけのバカの下で、一生小作人やら使用人やらで搾取(さくしゅ)されるなんて馬鹿らしい ──そう考えるのは、間違いなのか? ただ単に運が悪いということなんだろうか? それとも、俺が……
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