5章 反逆者

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完全にイカれきった奴ほど『自分は正常だ』と言うように、テロリストもまた自分のことを『革命家』だと称した。 名前はドゥーモ。歳は四十くらい。髪やヒゲは陰毛のように縮れていて、肌はマヌ人の中でもひときは黒い。そのため脂ぎって黒光りした顔は周囲の闇と同化して、ぎょろっとした白目と歯ばかりがいやに目立った。 最初に『おまえは何派だ?』と聞かれたので、カラスは『派もなにもわからない』と答えた。 ドゥーモは無所属の政治活動家と解釈したようだ。自分の派への勧誘をはじめた。 〈……それでだな、我が同志、ウンチャカ=マチュルク師は言われた。(しいた)げられている者たちよ、立ちあがれ! 欺瞞(ぎまん)に満ちた権力者の支配から、人民を解放するのだ。聖戦の先には自由と平和、そして豊かさが待っている〉 人民を解放することと、昼間のように人ごみの中で自爆テロをすることが、どう結びついているのかわからない。でも聞かない方がよさそうだ。長々と説明されても困る。この監房から出る事すらできないのに、今さら新人を勧誘しても無駄だとは思わないらしい。 カラスは硬い床の上に直接肌をつけて横たわっていた。石床なので冷たい。殴られた所は(あざ)になって、体中痛かった。 カラスが丸めた背中をむけて返事をしなくても、ドゥーモは延々と一人で革命闘争演説をつづけていた。 〈今の王は偽者なのだ。あの第三の目は作り物だ、平伏(へいふく)してはならない。その証拠に、我々は本物の第三の目を持つ人物を知っている。今の王のいとこのクレハ様だ〉 〈いとこ……〉 ジャングルでララが見たと言っていた少年のことを思い出し、ドゥーモのほうを振り返った。
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