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眠っているあいだ、変な夢を見た。
カラスはララといつも通り、どこかの安宿から出掛けようとしていた。
途中カウンターまで来たところで、ララが『忘れ物したからちょっと待ってて』と言って部屋に引き返した。
が、いくら待っても戻ってこない。
不審に思って部屋の様子を見にいった。
泊っていた部屋のドアを開けると、そこは安宿の客室ではなくなっていた。
以前半年くらい庭師をやっていた屋敷の一室に変わっている。
伯父の家から持ち出した金が減ってきて、まだ呪術で稼ぐことを覚える前のことだ。
そこは主人の奥さんの、サミーという女の寝室だった。若草色の壁の広々とした部屋に、猫足の白い家具が並んでいる。天井には小さなシャンデリア。大きな窓にはフリルのカーテンがついていて、そのむこうには桃色のバラの咲き乱れる明るい庭園が見える。
カラスはそこで、主人の目に障るような枯れた花や落ち葉を片づけ、堆肥を作ったり、簡単な剪定をしたり、何時間も腰をかがめて草をむしっては、主人の虚栄心を満たす手伝いをしていた。
芸術的な造園はできないので、任されるのは、すでに美しく作りこまれた庭園を維持するための、地味な肉体労働だ。
でも、主人の留守中は、こっそり奥さんの寝室に忍びこみ、泥のついた作業着を脱ぎ捨てる。
奥さんのサミーと初めてちゃんと会話したのは、気だるい初夏の陽気に包まれた、昼下がりの庭園だった。
花の植えこみに混じった小さな雑草をせっせと取り除いていると、近くで奥さんがバラのアーチの下に立って、ぼんやり花を眺めているのが目に入った。
しかし、彼女の目の前にあるバラがしおれかけているのに気づいて、しまった! と思った。
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