4章 理不尽な罪状

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王は双方にむかって手で払いのけるような仕草をし、黙るよう合図を送った。 側近を黙らせ、マヌ国王は、ようやく客人のほうを見た。 〈入れ〉 ララは王の姿を見て、さらなる衝撃を受けた。予想以上に人間離れしていたからだ。 王の顔面は青や緑の顔料で塗りたくられ、王冠からは雄牛のような黄金の角が生えている。その下からまっすぐで艶のある黒髪が床までのびていた。 様々な宝玉で彩られた玉座の背は高く、王自身は小柄だ。 全身孔雀(くじゃく)の羽飾りのついた服に身を包み、背中にも孔雀の尾羽を背負っている。 その格好は、まさに宮殿前にあったマヌ神像そのものだ。 しかも(ひたい)には紫色の第三の目がついている。 その目は、ジャングルで見た少年のものとそっくりだった。 でもカラスから、王様の目は作り物だと聞いている。本当かどうかはわからないが、そう邪推したくなるのにも理由がある。 ジャングルでの一件があってから聞いたことなのだが──マヌには大昔から、第三の目を持つ者を王にする、という風習がある。 これは逆に言うと、第三の目さえついていれば、血筋や家柄とは関係なく、誰でも王になれる、ということなのだ。 このことは、おばあちゃんが神話を語ったときに『マヌ王はマヌ神が選んでいる』と言っていたのと関係がある。 マヌ神は誰が王なのか一目でわかるよう、選んだ王に印をつけた。 その印こそが、第三の目なのだ。 そんなわけで、マヌ王国には王家というものが存在しない。 第三の目は子供に遺伝するものではないからだ。 王が年老い、その治世が終わりに近づくと、マヌの民の中から一人、新たな三つ目の子が生まれ、それがまた老いると、まったく関係のない家からまた別の三つ目が生まれる。 マヌ王国では代々そんな神秘的な方法で、血のつながりのない者に王位が受け継がれてきた。 赤ん坊の額の目は生まれつき閉じていて、在位中の王が死ぬまでは開かないし、神力もそなわっていないものらしい。 マヌ教徒たちによれば、老いた王の死とともに、その古い肉体に宿っていた神の永遠なる魂が、そっくりそのまま若い王の新鮮な肉体に宿る、と信じているのだった。 カラスは、これらの言い伝えと歴代の王の第三の目をひっくるめて、国家規模の壮大なペテンだと主張した。 『どうせ貴族の中から適当なのを王に(まつ)りあげて、あとから目の飾りをつけてるだけだ。うさん臭い宗教家と手口は同じで、もっともらしい理由をつけて支配するために、ありもしないものを信じさせているだけだ』と言うのだ。 だが作り物だと聞かされていても、実物を前にするとぎょっとしてしまう。 近くに進み出てみればみるほど、本物の眼球のようにしか見えなかった。 第三の目の下にある二つの黒い目は、鋭くこちらをにらんでいる。 厚化粧で表情がわかりにくいが、なんだか怒っているように見えた。
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