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「想い出してくれましたか」
「あなたは変わらないですね、やっぱり本物の仙人だったんだ」
「ええ、やっと信用してくれましたね。まあ誰でも仙人と言われてああそうですかと信じる者はいませんからね。で、どうします?時が過ぎて心変わりもあるでしょう。まだ6分強ありますから、コーヒーでも飲んで考えてください」
6分と聞いて山小屋での出来事を全て想い出した。あの時寿命を読まれて希望を言った。確か女房の所に行くか、九官鳥になって喜ばれるかの選択をした。善は今が一番楽しい。あれ以来口下手を反省し努力してお世辞のひとつも言えるようになった。すると流れる空気がガラッと変わったのを実感した。歌に自信がある故に口下手を武器にしていた。歌が仕事で喋りは不要と粋がっていたのが恥ずかしい。
「こんなお願いは許されますか?」
「どんな?」
「もう少し生きていたい」
「ブー、駄目」
「一年ぐらいはどうです?」
「天命は神の想定です。全うされたことを喜んでください」
金原の答えは冷たかった。
「そうですか?」
「そうです。ただ希望の転生先が変わったのなら仰ってください。適当なのを見繕って差し上げますよ。あの山小屋であなたはみんなに喜ばれる九官鳥がいいと希望した。ですから私はこれだって言うのをお持ちしたんですがね」
善は考えた。籠の中の九官鳥。死んだ女房が頭に浮かぶ。
『あなたが喋らないから代わりに九官鳥でも飼おうかしら』
口下手を理解してくれた女房。九官鳥になれば女房の元に行けるかもしれない。
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