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「ぼちぼち時間です。途切れてしまうと手続きが面倒になります」
「お願いします。よく喋る九官鳥にしてください」
金原は頷いた。カフェのベンチに二人で座った。生命線を天中に当てた。指が裂けるほど拡げた。その指が脳に沈んで行く。寿命の最後に小指を絡ませる。そして来世の線を繋いだ」
善が項垂れた。抱えているギターの弦がテーブルの角に当たり切れた。寂しいファの音が福富町の夜に流れた。
「よく喋る九官鳥だよ」
銭湯女風呂の縁側にぶら提げられた鳥籠に入れられている。
「名前は何て言うのおばさん」
若い女が髪をとかしながら番台に訊ねた。
「昨夜変な男が来てさ、これを飼って欲しいって置いて行ったんだよ。よく喋るから客寄せにもなるからってうちの人が言うからさ。飼うことにしたんだけどね。名前は善三郎って言うんだよ。おおい、善三郎」
『善三郎、おおい善三郎』
女将の声を真似て喋る。若い女は首を傾げた。
「なんだい、善三郎に心当たりでもあるのかい。それともこれかい?」
女将が小指を立てた。
「うんう、夢かもしれない。善太郎、♪旅のつばくら 淋しかないか」
若い女がサーカスの歌を歌う。
「若いのに随分と懐かしい歌を知っているね」
「うん、それが不思議なの。子供のころから頭に張り付いてるのよ」
女の髪が抜けて扇風機に飛ばされ鳥籠に張り付いた。
『♪おれもさみしい サーカスぐらし とんぼがえりで 今年もくれて
知らぬ他国の 花を見た ♪』
「やだよ、善太郎が続きを歌っているよ。それにしてもいい声してるね、きっと前の飼い主は歌い手かもしれないね」
了
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