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「お客さん、ここまでだな。その住所だとここから歩いて30分ぐらいだけど、一旦甲府に戻って明日出直した方がいいんじゃないの。宿は紹介してあげるよ」
「いや、行きます」
「知らないよ、この先は灯もなくなるからね」
善はタクシー代を支払い締め固められた雪の小道を歩き出した。しばらく歩くと集落が見えて来た。運転手が言っていたように裏は山で陽が当たらない。貧しい村だと一目でわかる。
「ごめんください」
ガラス戸を叩いた。
「ごめんください」
玄関の灯が点いて内回し錠を回している。
「はい」
ガラス戸を細目に開けて返事が聞こえる。
「私は息子さんの友達です。息子さんのことは聞いていますか?」
ガラス戸が半分開いた。
「どうぞ」
善は中に入る。
「友達なんかいたんですかあの親不孝に?」
母親は善を炬燵に誘った。
「警察から連絡はありましたか?」
「そっちで焼いてくれと頼みました。骨もそっちで処分して欲しいと伝えましたがそれは出来ないと言われました。あたしも身体が弱いんでね、郵送してもらうことにしました」
「遅れましたが私は息子さんの友達で善と言います。これを預かって来ました」
善は半分を抜き取らずに預かったまま炬燵の上に置いた。
「金?どうせ悪い金だろう」
「いえ、息子さんが競馬で当てた金です。おふくろさんにと」
善は嘘を吐いた。
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