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「眠っちゃ駄目ですよ。起きてください」
善を揺り動かす男がいる。渋茶色のハンチングを被り黒いジャンパーを着ている。善は身体を揺すられて目が覚めた。
「ひどい熱ですね、吸いだして上げましょう」
男は善の額に掌を当てた。経を唱えている。男の掌に善の熱が吸い上げられる。真っ赤になった掌を胸の前で突き出した。熱が湯気となって外に出て行く。
「楽になったでしょ」
「私は死んだんでしょうか?」
「いえ、死にかけていました。もう五分遅ければ危なかった。祈りが弱いんで私もどうしようか迷った。その分遅れてしまいましたが間に合ってよかった」
「あなたは?」
「こういう者です」
名刺を出した。
「仙人、金原武・・・さんですか?」
「ええ、そうです。あなたの祈りが通じて馳せ参じました」
「祈りって?」
「死ぬなら死んだ嫁さんのとこに行きたいって神に祈ったでしょう。生まれ変われるならお喋りな九官鳥がいいってお願いしたでしょ。それが私に通じたんです」
「神様ですか?」
「違いますよ、名刺に仙人て書いてあるでしょ。神の雑用係と言えば分かり易いかな」
善は熱にうなされていたからこれも夢かもしれないと目を瞑り顔を振った。目を開けると金原が笑っていた。
「夢じゃありませんよ」
「それじゃ叶えてくれるんですか?」
「二つは無理ですね、奥さんの近くに行くか、九官鳥になるか、どちらか?」
善は考えた。20年前に逝った妻は自分の来訪を期待しているだろうか。
「人間で死んだらどうなります?」
それが分からなければ先に進めない。
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