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掴まれた胸倉を払った。全く力を必要としなかった。汚れた手をシャツで拭いた。しばらく歩いたら目的の店に到着した。慎吾が入口前で待っていたので声をかけた。
「久しぶりぃ」
「久しぶり」
「お元気そうで、何よりだよ」
「何だよ、お前。もしかして酔っぱらってんのか?」
「まだまだ全然酔ってないし。これからだし。まだまだまだまだ」
「大丈夫かよ。服になんかついてるぞ」
指摘されたので見てみると、シャツの胸元辺りに染みがあった。
「何それ? ケチャップ?」
「わかんねえ、たぶんそうだろ」
ケチャップをつけるようなモノを食べただろうか。まったく思い出せない。
「お前、どっかで飲んできたのか?」慎吾が訊いてきた。
「待ちきれなくて、立ち飲み屋でちょっと」
「何だよそれ」
「まあ、いいじゃないいいじゃない。今日はお前の奢りなんだから、ちょっとでもその負担を減らしてやろうと思ってさ。気遣い、気遣い。俺の優しさ」
慎吾の背中を押して店に入る。今日は記憶を失うまで飲んでやろう。
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