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姉
この後、この3家族はお祭り騒ぎだった。何しろ、変質させられたお父さん達が戻って来た。そして変質させられた家畜も戻って来た。次は変質された男の子達が帰ってくるのではないか? 期待と興奮で、昼食の席は大騒ぎになっていた。
「お兄ちゃん、遊ぼ!」
「ああ、おいで!(元気いいなあ!)」
「なあ、博俊君、君って凄いんだなあ!」
「いえいえ、そんな事は。(俺、何をしたんだろうね・・・・)」
「博俊君、沢山食べて下さいね。」
「はあ、ありがとうございます。(結構沢山食べたなあ。意外と美味しい原始的な料理。)」
大歓待の中、博俊は一人で混乱していた。俺、矢を化け物に刺していって、それから、何かしたんだろうか?
博俊が人気を独占しているのを見ながら、光は考え込んでいた。不覚にも長時間に渡りキスされた事もあり、光の心も穏やかではなかった。そして、その中で、重要な事にやっと気づいた。
「あ、太陽の白矢が足りないんだっけ・・・・」
博俊は、これ幸いと、そのセリフに乗って来た。
「あ、俺、まださっきの3本持ってるよ。これ、一応持ってて良いか? それとも一旦返そうか?」
「えっと・・・・何が起こるか分からないから、持ってて・・・・」
「分かった。だけど、これ、どうやって作るんだ?」
「作れないよ、こんなの。」
「じゃあ、どこで手に入れるんだい?」
酒らしきものを飲んでいるお父さんの一人が大声で答えた。
「ゲームだとさ、ミッションをクリアする毎に、運営から与えられるんだろうけどな。」
いやいや、こんな事登場人物が言う筈ないでしょ。設定がおかしい。この著者は少しおふざけが過ぎる・・・・・すみません。
「私、昼食が終わったら、取ってくるわ。」
「採ってくるって、どこかに生えてるのか?」
「字が違うわ・・・・ってか、待ってて、あ、えっと・・・・・あなたも来て。」
何だか光もいろいろ迷っている様だった。
すると、少女が手を挙げて叫んだ。
「デートだ!」
別の少女たちも騒ぎ始めた。
「わー、どこでデートするの!?」
「私もついていく!」
「お兄ちゃん、私とデートしよう!」
そう言って、一番小さい女の子が、博俊にキスしてきた。さっき泣いて抱き着いていた少女だ。え、そんなおチビちゃんがキスしてくるの? 驚いていると、舌を出してきて、べろべろ博俊の口の周りを舐め始めた。お父さんもそうだが、光もそれをみてギョッとして固まっていた。
う~ん、幼い女の子ってのは、意外と曲者だぞ。意外と男心を弄んでくれますねぇ。それより、君達を連れて行くのは、危ないんだよ。守ってあげられる様な気はしてるんだけど、まあ、念の為ね・・・・。
博俊がそう思っていると、気を取り直した光が、何だか不満を押し殺した様に作り笑いで説明した。
「ごめんね、直ぐ戻るから。それに、ちょっと遠くて危ない場所だから、あなた達には無理だわ。」
「危ないの?」
「危険なデートなんだ。」
「危険な事をするの?」
こらこら、君たち、純真な真顔で何て事を仰いますか。
昼食が終わり、光は博俊を出会った場所・・・・草原に連れて行った。少女達は相当駄々をこねたが、お父さん達が徹底的に邪魔をした。そしてそのお父さん達をお母さん達が健全な少女達の発育を阻害する悪党めと、ネチネチといびり始めたみたいだったのが、去り際に見えた。
「さて、私を背負ってくれる?」
「ん?」
「・・・・」
「俺が? おんぶすれば良いの?」
「何度も言わせるないで! ははは恥ずかしいんだから!」
「わわわ分った、悪かった! 背負うんだな、ほら!」
「・・・座って。」
「あいよ。」
「・・・・」
「乗ったか?」
「・・・・」
「手を回すぞ。」
「さっさとして!」
「はい!」
「立ち上がって!」
「一々叫ぶなよ・・・・で、どうするんだよ。」
「あんた、飛べるでしょ?」
「え、やっぱり?」
「な、何よ?」
「本当に、俺、飛べるんだ・・・・なんでだろう。でもさ、さっき確かに飛んでたよな・・・・」
「こ、この恰好恥ずかしいんだから、さっさと飛んで!」
「ど、どこにだよ!」
「ごごごごめん、あの山の頂!」
「え、あんな所!?」
「・・・・心配?」
「そりゃねえ・・・・光を負ぶってるし。」
「重いって?!」
「違うよ、心配なんだよ!」
「わわわ///!」
「でも、やってみるよ。そこに行かないと矢を採れないんだよな。」
「ん・・・・。」
「捕まってろよ!」
「・・・はい!」
博俊は、軽くジャンプしてみた。お~、飛んだ飛んだ! 体が風船の様だ、嘘みたいに上がっていく。でも、行先をどうやってコントロールするんだろう? 例えばもっと高くって思うと? あ、上がった! なるほど、思った様に飛べるんだな、こりゃ、夢みたいだ。
博俊は、暫くどうすればどっちに飛ぶかを確認していたが、なんとなく手応えを掴むと、山頂を目指して急加速した。
「わ、息苦しいぞ・・・・」
「ゆっくり上がって! 気圧が急変すると苦しい・・・・」
「そ、そうだよな、鳥って凄いよな・・・・それに、寒くなってきたぞ。」
「気温だって下がるわよ、もう・・・・」
「知ってた、知ってたけど、実際に空を飛ぶなんて思ってもなかったから、知識が付いて来てないんだよ。」
「まあ、そうかもね・・・・」
「でもさ、背中は暖かいぞ。」
「へ、変な事、言うなー!」
「柔らかいし・・・・」
「////!」
「痛て、叩くな、おい、わ。体勢が!」
「きゃ、は、早く、立て直して!」
「じっとしてろ! 全く!」
「う~、分ったわよ!」
雲を越え、光の言っていた山頂に近づいた。山は何だか草木も枯れた荒地の様になっていた。そして、改めて空から下界を眺めると、今まで通って来た地上以外は、基本的に荒地の様に見えた。
「ここら辺も、昔は緑の良い場所だったのよ。」
「化け物、か?」
光が一瞬ピクッとしたが、博俊は気づかなかった。
「そう。」
「あれ、あの一帯だけ、なんだか緑が豊かだぞ?」
「そこよ。そこに行って。」
「分かった。それっ、一っ飛び~!」
「わー、調子に乗るな~!」
博俊は、近づく地面に、何か透明なカプセルの様な物を見つけた。その中には、光とよく似た女の人が横たわっていた。
「この人って・・・・」
「私のお姉さん。」
二人は、カプセルの横に、静かに着地した。すると、カプセルの中の女の人は、少しだけ目を開けた。
「光?」
驚いたのは光だった。声を掛けられたのは初めてだった。いつの間にこんなに回復したのかしら!?
「お姉さん、声を出せるの?」
すると、いつもより元気な声が聞こえた。
「この方のお陰ね」
「や、やっぱり!」
「光、助けてもらいなさい。」
「うん、でも、どうすれば・・・・」
「二人が信頼関係で結ばれたら、自然と火のエネルギーを受け取れますよ。」
「そ、そうなんだ・・・・・あのね、」
その後、光は姉に、博俊がこれまでに2回化け物を一斉浄化した話をした。姉は、なるほどと嬉しそうだった。そしてその様子を、博俊は訳が分からないなりに聴いていた。
姉は太陽の白矢を指さした。カプセルの周囲の地面から、白い羽根が沢山出ていた。
「え、こんなにあるの?」
「ええ、何だか調子が良いの。博俊さんのお陰かしら。沢山作っておいたから。」
光は、それらを引き抜きながら、それらをポケットに入れた。そして博俊にも声を掛けた。
「私一人じゃ持ちきれないわ。あなたも持って。」
「そうか?」
二人が全ての白矢を抜き取って帰ろうとすると、姉が博俊に呼びかけた。
「光を、妹を、お願いしますね。」
「あ、はい。」
「お姉さん、また来ます。じゃあ、博俊君、悪いけど、また、その・・・」
「ん、ほれ。」
博俊が座ると、光は恥ずかしそうに背中に乗った。姉はそれを見て、嬉しそうだった。
「まあ、仲良くなっ・・・・」
光がそのセリフを遮る様に大声を出した。
「じゃ、じゃあ、また、来るから! 何かあったら呼ぶよの!」
「・・・ふふ、はい。便りにしてるわ。」
「ふーんだ。行こ。」
「お、おう。それじゃあ、お姉さん、また。」
「はい、また。」
「(お、お姉さん///)!」
光の顔が沸騰したやかんの様に真っ赤になったのを見て、姉は楽しそうに手を振った。そして博俊たちが飛び上がると、燃料切れの様に再び目を閉じた。
博俊は、ゆっくり降下を始めた。お陰で、今度は気圧や気温の変化に翻弄されずに済んだ。
「この辺りから、空気が濁るんだな・・・・」
「分かる?」
「なんとなく息苦しいんだ。俺、小児喘息だったらしいんだよね。」
「そ、そうだったんだ。」
「それから、世間は荒れ放題だったんだな。俺が気を失ってた原っぱと、部落回りと、それからそことお姉さんのいる場所を結ぶ区間だけが緑色だ。」
「そうよ。お姉さんの周りとあの部落の周囲だけがまともなのよ。」
続いて、私が退治してるから一応最後の砦だけは守ってるんだけどね、と言おうとして、やめた。
「お前、俺がいなかった時って、この僅かに汚染されていなかった道を歩いてお姉さんに会いに行ってたのか。」
「そうよ、私そう言うのは得意だから。」
「だよな、結構下半身しっかりしてそうだしな。」
「(な、何を見てるのよ~///)」
ますます空気が汚れてきた様に感じられた。
「なあ?」
「・・・・何よ?」
「お前の姉さんって、何者?」
「・・・・この国の女王よ。」
「なんであんな所でカプセルに入ってるんだ?」
「長くなるけど、聴く?」
「そりゃあ、俺、今の状況、ほとんど理解してないからね。」
「分かった。飽くまでも、お姉さんから聞いた話だけどね・・・・」
この世界(妖精界と呼びます)は、博俊が住んでいる世界(人間界と呼びます)に重なっている別の上位の世界である。世界はこの2つだけではなく、元々それらの世界はエネルギー伝播により影響を与え合っている。
少し前に、妖精界に病原体と呼ばれる生命体が発生し、その結果鳥や獣、そして人間まで、生命が変質させられてしまった。特に、大気に邪気が蔓延し、太陽光が届かなくなった。太陽光は、妖精達の特殊能力の源である。強大な妖精能力を持つ大妖精の女王ユーラシアですら、太陽光を遮られ苦戦を強いられた。このままでは窮すると悟ったユーラシアは、残された妖精能力で自らを外界と遮断し、双子の妹光に生命力を与え、少しずつでも浄化をさせていたのだ。先程の太陽の白矢は、ユーラシアが妖精の力で作り出していたのだ。
大妖精を束ねてこの妖精界を司る大自然(女神)は、本件を収束させるべく調査をした。そして、この現象は、人間界における環境汚染や温暖化等の人間の愚行と同期している事、どうやらこの同期の為に、病原体を完全に退治できるのは人間界の生命体に限られている事を突き止めた。そこで、博俊を人間界から招き出し、特殊な力を与えて光の支援を仰ぎつつ、最終的には病原体を退治してもらおうと思ったのだ。
「なんとなく、ぎこちない漫画かゲームの設定みたいで、突っ込み所、満載だな。」
光は若干冷や汗をかいている様だったが、博俊は気づかなかった。
「そうね、でも、事実なのよ。」
「まあ、そういう本質的な疑問はおいおい考えるとして、要するに、お前のお姉さんを蘇らせるには、どうすれば良いんだ? それが上がりだろ?」
「そうよ、お姉さんさえ健全なら、ユーラシア国全体が浄化されるわ。」
「その病原体は凄いな、そのお姉さんを、油断していたのか、急な出来事で対応取れなかったのか知らないけど、カプセルに避難させちゃったんだから。」
光がまたヒクッと反応した。
「えっとね、先ず、悪霊がお姉さんを攻撃したの。急だったので対応できなかったのよ。でも、完全には変質されなかった。そこで悪霊は、方針を変えた。お姉さんが閉じこもっている間に、このユーラシア国を変質させようとした。で、今それに近い状態になってるの。」
「で、俺が呼ばれた、と。」
「ごめんね。」
「ん? どうした?」
「だって、あなたにしたら、こんな迷惑な話ないよね。」
「ん~、まあ、でもさ、人間の責任でもあるんだろ? その辺りも良く解らないけど、確かに僕らの世界で人間は地球を蝕んでいるからね。」
「ありがとう・・・・」
「で、国はいくつあるの?」
「あ、そっか・・・・知らないんだ・・・・・」
「お姉さんは知ってる?」
「その筈。」
「双子って言ってた?」
「うん。でもね、先に生まれたお姉さんは、大妖精になる為に特別な教育を受けて、私は・・・・・」
光はそこで言葉を止めた。
博俊は、怪訝そうな顔をした。先程から、この一連の説明にも何か妙な違和感がある。
「・・・なんでもない。」
「まさか本当は存在してない幽霊、なんて言わないよな?」
「え、ま、まさか。」
「そうだよな、今物理的にさわってるもんなあ。」
「////!」
「じゃあ、お姉さんが蘇ったら代わりに消えてなくなるとか?」
「そんな事ないわよ! 何それ。勝手に殺さないでよ。」
「良かった!」
博俊は、明らかにホッとした。
「え?」
「だって、お前みたいな可愛い女の子と折角知り合いになったのにさ、いなくなるなんてやだよ。」
光はドキリとした。
「まあ、俺が守るから。」
「う、ウザ! それより、魔物退治、宜しく頼むからね!」
光はそういって、ぎゅっと博俊を後ろから抱きしめた。
「い、痛い! お前、結構腕力あるなあ・・・・」
ふん、腕力あるわよ・・・・何、恰好付けて! そういえば、こいつ、今までに2度も私を守ってくれたんだわ、嬉しいかも・・・・・
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