魔物を呼ぶ男

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魔物を呼ぶ男

 二人が戻ると、少女たちが寄って来た。 「お兄ちゃん、お帰り~!」 「お土産は?」 「一緒に遊ぼ~!」 瞬く間に、博俊は少女たちに囲まれた。 「やれやれ、人気者ねえ。まあ、仕方ないけど・・・・」 光は、なんだか胸にチクッと痛みを感じた。  博俊は少女たちの相手をしながら、周囲を見た。まだ日が高そうだ。今日はいろいろあったなあ、でもまだまだ何かありそうだけどね。 「あれ、おじさんたちは?」 少女たちはお父さんがいるかどうか、あまり関心なさそうだった。 「知らなーい!」 すると、比較的近くにいたお母さんが呆れた顔で答えてくれた。 「他の場所の様子を見てくるんですって。3人で行ったんですよ。」 光が驚いた。 「え、それはちょっと危険・・・・」 「ほら、あなたたちが行ったとき、この子たちが一緒に行きたいって言ってたのを妨害したでしょ? だからちょっとお灸を据えたんです。そしたら、名誉挽回って。」 「あはは・・・・」  前回にも説明した通り。この部落、広場、そしてユーラシアの入っているカプセルのある場所を結んだ一帯だけが、唯一変質されていない場所なのだ。他の部落はとっくに変質されているので、危険だ。  博俊はちょっと心配になってきた。 「光、迎えに行こうよ。襲われてるかもしれないよ。僕らそのために矢を貰って来たんだろ?」 「そりゃ、そうだけど・・・・」 「何だか、この娘達を盗っちゃったみたいで、申し訳ないし・・・・」 「あらあ、父親なんて、女の子の正常な発育を妨害するだけの存在なのよ、おほほほ!」 こ、怖い!  すると、突然周囲に邪気が渦巻いてきた。光がいち早く察知したが、博俊にも分った。 「く、来るわ!」 「結構数多いか?」 「・・・かしらね。」  唸り声と草を搔き分ける音が聞こえた。だんだん近づいてくる。博俊と光は、顔を見合わせて頷いた。 「お母さん達は、この子達を守って! 家の中に入って!」 「お、お兄ちゃん!」 博俊は、少女たちにグーマークを作り、ニカッと笑った。  近くで唸り声がした。 「恐竜化け物の声よりは小さく、動物化け物よりは大きい・・・・」 光がまた顔をしかめた。 「・・そうね、って事は、大きさは私達ぐらいか少し大きい感じかしら?」  その化け物がいよいよ姿を現した。光の想像通り、寸法は博俊より一回り大きいぐらいで、全体的な形は人間に似ていて、ところどころ別の動物が混ざっている様な姿だった。 「そろそろ化け物に慣れてきたからね、なんとなく人間に見えるし、別の生き物にも見えるから、きっと人間と動物でもブレンドされてるのかもね。」 「へえ、博俊君、やるわね。そうかもしれない。」 「こんな事もあるんだ・・・・」 「じゃあ、一体ずつ、さっそくさっき貰った矢で・・・」 「俺。あちこち動くから、バックアップしてくれる?」 「やってみる。確かにその方が効率的かもね。いくぞ、人間と獣の愛の子化け物め!」 光がそれを聴いて、また暗い顔をした。  博俊は動き回った。文字通り飛んだり、跳ねたり、そして走ったりと、森の中を縦横無尽に動いた。光はそれを、少々苦労しながらではあるが、援護したり、あるいは白矢を投げたりして、次々と化け物を浄化していった。 「ひゃっほう! 気持ち良い~!」 「この・・・、調子に乗っちゃって。」 光は、楽しそうに化け物狩りをしている博俊を、半分は嬉しそうに、半分は心配そうに見ながら、バックアップを怠らなかった。いや、もう一つ、ややこしい心情を抱えていたが、少なくとも博俊にはそんな事は解らなかった。  浄化をすると、人間だけでなく、動物も沢山現れた。 「あら、あんたあっちの部落の奥さんじゃないの!」 化け物に食べられてしまった女性も生還した。 「まあ、たかし! 無事でよかった!」 悪霊に変質させられた男の子たちが浄化された。 「あ、こけこだ! 戻って来た!」 家畜も次々と元の姿に戻っていった。そして、家畜以外の野生の動物たちが現れると、その親、あるいはつがいの片方と思われる一頭が現れて、今し方浄化された動物と戯れていた。  そろそろ30分と言う頃、最後の化け物が浄化された。 「ふー。」 「終わった~。」 あんなに貰った矢が、かなり減ってしまった。日が残っている間に、もう一度取りに行かないといけない。それにしても、一々取りに行くのでは、やってられない。 「光、浄化する方法、他にないのか? 矢を一々取りに行くのも面倒だ。」 「あなたができる筈よ。」 「え、俺が?」 「もう2度もやってるのよ。まあ、やり方が解らなければ、いろいろ試してみて。それまでは、お姉さんの所に取りに行くしかないわね。」 「そっか~、練習しなくちゃな。」 博俊が立って息を整えているところに、光がやって来た。 「それにしても、あなたはタフね。」 「サッカーしてたからね。それと、体、軽いんだよね。何だか自分じゃないみたいなんだよ。」 「へえ。」 「でもさ、化け物は基本的には男を襲うんだな。最初に遭った恐竜みたいな化け物も、さっき遭った小さい奴も、今回の半人間も、結局俺に襲い掛かってきたからね。」 そうなのだ、化け物は光や他の女性たちではなく、基本的に博俊を狙ってきていた。   光は、違う、そうじゃない、そう言おうとしてまたしても言いそびれた。光は、最後の事実を言う事を躊躇っていた。 「この矢なんだけどさ、化け物の大きさは関係ないの?」 「あー、良い質問。」 「最初に遭ったあのでかい恐竜みたいな化け物が出てきたら、この矢だとなんだか小さすぎるじゃないか。」 「実はね、大きさじゃなくて、変質した命の数が関係してるのよね。」 「命の数?」 「例えば、今回倒したば・・・・変質体は、人間と動物の合いの子だったりしたじゃない。この場合、命は2つって勘定するのよ。まあ、人間一人と動物2頭だと命は1+2=3になるんだけど。」 あれ、今どんな単語を言い澱んだんだ? 「ははあ、最初の恐竜化け物は、大人3人だったから、矢が3本必要だった訳か。だから光は、太陽を浴びさせようって言ったんだ。」 「矢が何本必要が判らなかったからね。」 「あれ、でも、俺今、一つの化け物を浄化するのに1本ずつしか使ってないよ。本当は2本要るんじゃ?」 「今日姉さんから貰った矢は、2番目に小さい矢で、2つの命まで対応できるのよ。最初に持ってたのは1番小さい矢だったから・・・・」 「矢にも大きさがあるんだ。」 「お姉さんの力次第で、矢も大きくなったり小さくなったりするのよ。今まで1番小さい矢しかもらえなかったんだけど、今日は少し大きくなってたわね。お陰で、ば・・・倒した数程度しか消費しなかったって事。」 まただ。ばって、化け物の事かな、なんで言えなかったんだろう? まあ、確かに元は人間や動物だから、化け物は言い過ぎかもね。 「なるほど、結構矢が余ってるんだ。」  そんな話をしていると、いつの間にか大勢の人々が二人を取り囲んでいた。 「お兄ちゃん、弟を取り戻してくれて、ありがとう。」 「お二人さん、戻してくれて、ありがとう。」 そうか、ここの家族の子供もいたんだね、それは良かった。それに、他の部落の人たちも戻って来たみたいだった。  この部落の3人のお母さんが、皆に呼びかけた。 「さあ、ちょっと広場で労い会でもしませんか?」 「ちょっとですが、飲み物を用意しますよ。」 博俊は、今日一体何回パーティをしたんだろうと、少しおかしくなった。すると光がこそっと呟いた。 「それほど嬉しいって事じゃない?」  それにしても、と光は思っていた。こんなに変質した悪霊たちが襲って来る事は今までになかった。凄い頻度と数だった。もしかすると、博俊君に引かれてくるのかしら。この人に浄化してもらえるって、本能で解ってたりしてね。  集いもたけなわ、団欒の邪魔が最後に入った。グオオオオ! 地鳴りの様な音が聞こえた。 「え、巨大化け物?」 「また出たな? 何だか大きそうだな。1体だけか?」 博俊も勘が良くなってきた。  森の奥の、荒地になっている方から、その巨大化け物が近づくのが見えた。最初に遭った恐竜の様な化け物だ。  人々はキャーっと散らばった。その辺りの木の陰等に隠れようとしたのだ。光は、避難を呼びかけた。 「大丈夫、太陽の白矢は沢山あるし、この人は同じ様な悪霊を今日の朝に倒してます。本当は、家の中に入って貰いたいんですが、木陰に隠れた人は、そのままじっとしてて下さい!」  その化け物はあっと言う間にやって来た。 「よし、いくぞ! 光。」 「バックアップするわ。」 一丁、矢を使わない浄化ってのを、試してみようか、博俊はそう考えた。                          (つづく)
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