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変質化の正体?
博俊と光が、その巨大化け物の正面に対峙した。すると、意外な事が起こった。その化け物から声が聞こえたのだ。
「お前〇▼、※$@%◇&ない!」
え、何だって? 何だか、複数のセリフが同時に聞こえた様な・・・・。
「光、何か聞こえたか?」
「き、聞こえた!」
光は驚いていた。変質した化け物が喋るのを初めて聞いたのだ。そうすると、化け物にも意志や思考がある事になる。もしかすると、もしかすると、この辺りの邪気が弱まっていて、魂を吸い取りきれないのかもしれない。やはり、博俊君の存在が、お姉さんを助けて、邪気を弱めてるんだ!
その化け物は、博俊を襲う前に、博俊の前に立ちはだかり、もう一度叫んだ。今度は、もっとはっきりと複数のセリフが聞こえた。
「お前には、娘たちはやらない!」
「お前だけに、英雄気取りさせない!」
「お前はかかあや娘に好かれて、気に食わない!」
博俊は、聞き間違いかと思った。
「ひ、光、聞こえたかい?」
「えっと・・・・」
光も3つのセリフを聞き取った様だった。
この化け物は、助けた3人の父親たちなのか? また化け物になってしまったのか? そして、今のセリフは本音か?
すると、今まで家の中で様子を見ていたお母さんたちが出てきた。光が注意した。
「あ、危ないから、家の中に・・・・」
するとお母さんたちは、光を制して、その化け物を怒鳴りつけた。
「お前さんたちかい?!」
「馬鹿な事するでないよ!」
「焼きもちなんか焼くんじゃないよ!? 大人げない!」
その巨大化け物は動きを止めた。何だかごにょごにょ呻いている様にも感じられた。
博俊は、どうしようという顔をして、光を見た。光も戸惑っている様だった。
その時、遠くからゴオッと言う地鳴りの様な音がした。博俊は、直観的にこれは凄い魔物だと感じた。先程やって来た巨大化け物も、何だかそわそわしていた。
「博俊君、もしかすると、この辺り一帯を牛耳っている大魔物かもしれない。私たちが次々と浄化するので、怒ったのかもしれない!」
気が付くと、辺りに黒い霧の様なものが立ち込めていた。この悪臭! この圧力! そうだ、これが悪霊の本気の雰囲気に違いない。
「博俊君、一気に片付けないと、また男たちが変質されてしまうかも知れない!」
「矢じゃ無理って事か?」
「あなたの力に頼るしかないかもしれない!」
「ちっ・・・・ぶっつけ本番かよ・・・・」
空が急に暗くなった。大魔物がやって来た。男たちが再び苦しみ始めた。そして、男の子はぐったりとして、形が変わり始めた。大人の男たちも膝まづき、そして姿が変わり始めた。
「お兄ちゃん!」
「お父さん!」
「お前さん!」
そうか、こうやって人は変質していくのか・・・・。
「お前が諸悪の根源か!」
もう、家族を悲しませるのはやめろ。もう、家族を襲うのは、やめろ! 博俊の怒りが頂点に達した。
「やめろー!!」
博俊が叫んだ。と、博俊の足が地面を離れた。そして、宙に浮いた体が輝き始めた。
「た、太陽の化身になるんだ! やっぱり、この人は、私が探してた人だ!」
博俊の体から閃光が放たれた。凄い光だった。本当に太陽が出た様だった。
「グワワワワ!」
恐ろしい断末魔の叫びが轟いた、空に稲妻が走った。
「大悪霊が、大悪霊が苦しんでる!」
博俊は、臭気のある場所を飛び回った。まるで、大悪魔の体の中を駆け抜けている様だった。恐ろしい唸り声が小さくなり始めた。体の中から太陽の光を浴びせられたら敵わない。悪霊の姿が次第に薄くなっていった。変質されかけた男たちは、元の姿に戻り、その場に倒れた。黒い霧が晴れていき、辺りに光が差し始めた。光はその眩しさに、思わず目を手で覆った。
「そっか、今までも邪気が・・・・黒い霧がやっぱり覆ってたんだ、本当に浄化されてなかったんだ・・・・夕焼け空が、こんなに明るかったなんて!」
博俊が静かに降りてきた。そして地面に足が付いたかと思うと、くなっと倒れた。
「あ!」
光は慌てて博俊を支えた。
ワーッとみんなが出てきた。
「お兄ちゃん!」
少女たちは、倒れた博俊の周囲にやってきて、心配していた。
変質されかけた男たちは、駆け寄って来た母親や妻たちに介抱された。
最後に出てきた3人の父親で構成されていた化け物は、元の3人に戻っていた。そこに、その妻たちが駆けつけた。そして、その内の一人が、自分の夫を思い切りひっぱたいた。パチ-ンと言う鋭い音が、綺麗になった森に響き渡った。
「馬鹿! 大馬鹿!」
ひっぱたかれたお父さんは、痛そうに頬を手で押さえて、神妙にしていた。
「なんで化け物になっちまうんだい!? お前さんが私たちを守ろうとしてくれてるのを知ってるわよ。そんなにひねくれないでおくれよ。ねえ!」
そして、お父さんを抱きしめた。
「私も悪かったよ。あんたも追い詰められてたんだね、誰にも助けを求められなかっただろうしね、孤独だったのかね・・・・」
それを聞いて、3人のお父さんたちも感極まりだした。
「すまない・・・・俺さ、あの坊主みたいに悪霊を倒せないし、娘も守れないし、何かできる事ないか探したんだが、結局肉体労働ぐらいだし、なんだか自分が嫌になってさ・・・・」
そのやり取りを、やっと目を開けた博俊が、光の腕の中で聞いていた。そして呟いた。
「・・・かもしれないね。」
「え、何?」
光が聞き直すと、少女たちは光をなじった。
「いま、お兄ちゃんは、変質は人間性を失う事じゃないか、って言ったわ!」
「私にも聞こえたわ!」
「だめじゃない、光お姉ちゃん、ちゃんと聴いてあげて!」
光はたじたじと苦笑いした。こりゃ、このちびちゃんたち、本当に博俊君の事、好きなのかもしれないわね。うかうかしてられないわ。それにしても、人間性の喪失か・・・・そうかもしれないわね。後で、お姉さんに確認してみよう。そして、そう思ってから、え、うかうかって何よ! と顔を真っ赤にした。
本当の慰労会が始まった。この部落全体が、浄化されたのだった。
博俊は光も連れて、先ほどの3人のお父さんのところに行った。そこには、他の部落のお父さんたちが集まっていた。そして博俊たちが移動するのに伴い、博俊を気に入った少女たちも付いて行った。
お父さんたちは、バツが悪かったが、さすがに大人だった。
「お、おう・・・・」
博俊は、手を挙げて挨拶をしながら、軽く尋ねた。
「あの、伺いたい事があります。教えてください。」
「そ、その前に、謝らせてくれ。」
「悪かったな、大人げない事して・・・・」
「どうかしてたよ。これからは、宜しく頼むよ。」
博俊はニコッと笑って頷いた。
「こちらこそ、一緒に頑張りましょう!」
すると博俊を追いかけてきた娘たち、父親を牽制した。
「お父さん、もうお兄ちゃんをいじめないでよ。」
「そうよ、私の未来の旦那さんなんだから。」
「大人げない事したら、お父さんには子供ができても会わせないからね。」
え、それ、今言うのか? 博俊は冷や汗をかきながらお父さんたちを見た。すると、彼らは楽しそうに苦笑いしていた。
「そうだな、君みたいな男だったら、安心してこの娘を任せられるかもな。」
「うん、宜しく。娘たちを幸せにしてくれ。」
「お願いします。」
「え、ええ?」
光が珍しく、不愉快そうに話しに割って入って来た。
「ほら、幼女相手に本気にならないの。でも勿論好意には応えないとダメよ。この子たちを傷つけない様に、断らないとね。」
ちょっと光ちゃん、それ、めちゃくちゃ難しいんですけど!? すると、少女たちが助け舟を出した。
「今は私たちチビなの、自覚してるから。」
「そうそう、良い女になったら、私お兄ちゃんの赤ちゃん沢山産むから。」
「それから、光お姉ちゃん、お兄ちゃんをいじめたら、許さないのよ!」
「勿論、お兄ちゃんの面倒は私たちが見るから。」
「うん、渡さないからね。」
光はギリギリと無理に笑っていた。博俊は、女って成長速いんだな~とあきれていた。
それより、本当に訊きたい事を訊かないと。
「えっと~、それより、教えて貰いたい事があります。」
そう言って、博俊は光を小突いた。
「ああ、教えられる事なら。」
「あのですね、情報を教えて下さい。どこまで行ったんですか?」
話によると、この周辺の部落を見て回った後、少し外に行ってみようとした。しかしどこもかしこも、邪気に覆われていたという事だ。そして帰路に就いた途中、隣の部落の近くで変質させられてしまった様だ。
光が、地面に折れた枝で地図を描いた。まるで見てきた様にしっかりした地図だった。博俊はもう驚かなかった。こいつ、恐らく国全体の状況を知ってるんだろうな。そして、そこに、この3人の移動経路を描いた。周辺部落群の外は、今回浄化された領域の外と思われた。つまり、隣の領域はまだ浄化されていないという事だ。
「博俊君、今度上に上がって様子を見て。」
「そうだね、状況が最悪の中、この辺りだけは浄化し切れたという事らしいね。貴重な情報をありがとうございました。」
博俊がお父さんたちを立てると、3人は少し気恥ずかしそうに頭を搔いていた。
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