5つの道標

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5つの道標

 火の国を、浄化して下さい・・・・・。あなたの力を、妹に・・・・・ 「はっ!」 博俊が目を覚ますと、まだ辺りは薄暗かった。ごそごそと周囲で何かが動いた。 「ああ、子供達か・・・・」 光の方を見ると、こちらを向いているが、まだ寝ている様だった。  今の声、光のお姉さんのユーラシアだよな・・・・、最初に僕に話しかけてきた声じゃないな・・・・。最初の声は、誰なんだろう・・・・。 「(でも、僕まで声を届けられる様になったんだとしたら、元気になったんだろうな。)」 博俊はいろいろ考えを馳せていたが、子供達がとても暖かい空間を作っていた事もあり、いつの間にかまた寝入ってしまった。  次に目を覚ましたのは光だった。この頃には、窓から明るい光が差し込んでいた。 「う~ん・・・」 子供達はまだうつらうつらしている様ね、博俊君は起きてるかしら。  そう思って博俊のいる方を見ると、少女達にべったりくっつかれてまだ寝ている様だった。本当にぬいぐるみね・・・・  光は、博俊を見つめていたが、博俊とべったりくっついている少女達を羨ましく思った。あ、今ならこっそりキスできるんじゃないかしら? そう思ってから、私ってこんなに情熱的だったかしらと、ちょっと戸惑った。  両サイドを少女達に占拠されていたので、頭上から近づいて行った。上下逆だと、何だか妙な気分だった。唇を重ねようとすると、目が首の位置に来た。  ちゅっ! わ、音がした! 光は、慌てて顔を上げた。誰も起きてこない。ほっとして、もう一度キスをしてから、布団に戻った。 「(わ、心臓、張り裂けそう///)」 もう寝られなかった。  少しすると、少女達がごそごそと起き始めた。少女達は、暫く博俊の体を抱き枕にしてまどろんでいたが、やがて窓から入る太陽の日差しに唆されて、博俊を起こしにかかった。 「おはよー、お兄ちゃん!」 「わー、暖かい!」 「・・・ま、待って・・・・・あと、少し・・・・」 「よーし、上に乗っちゃえ。」 「私もー!」 「あー私もー!」 「ぐへ!」 「あー、起きた!」 「お腹空いたー!」 「早く食べに行こう!」 光は、相変わらず私除け者なのねえ、と苦笑いしていた。そして、その風景を、同じ建屋の中の台所で炊事をしていたお母さん達が見て、クスクス笑っていた。  騒々しい朝食が終わった。例によって子供達が纏わり付いてきたが、博俊はまたねとさよならし、光を背負ってユーラシアの所に行った。 「おー、空気が美味しいね!」 「あなたのお陰ね。ありがとう。」 「叫んだだけだったような気がしてるんだけどねえ、俺、何をしたんだか、よく自覚してないんだよね・・・・」 「自覚して浄化できる様にしないとね。」 「そうだなあ。」  博俊の近くに鳥が集まって来た。そしてピーピー鳴いて博俊の周りを回ってから、飛び去った。 「鳥が飛んでいるのを、初めて見たよ。」 「そうだったわね。」  上から見ると、カプセルの中のユーラシアは、元気そうに手を振っていた。 「もうカプセルから出て良いんじゃないの?」 「確かに、太陽はもういつも通り見えてるけど・・・・まだ、大妖精としての能力が戻りきってないんだと思うわ。」 「それって、国全体を浄化したら、戻ってくるのか?」 「そうかもしれないわね。」 「なんだ、お前、知らないのか?」 「だって、私だって、何もお姉さんから聞かされてないんだから!」 「ふーん?」  博俊は、まだまだこの世界の事を理解しきれてないなあと思いながら、静かに着地した。だいぶ飛ぶのも上手くなってきた様だ。  姉のユーラシアは、カプセルの蓋を開けた。 「あ、お姉さん、大丈夫なの?」 「ええ、空気、綺麗になったわね。」 「もう、今度は慎重にね。」 「ええ。」 そう言いながら、光は姉の耳元でささやいた。 「私が・・・・黙っててよ。」 「そうなの?」 「だって・・・・・」 「そんな事ないと思うけど、分ったわ。」 博俊は、何を二人でぼそぼそ密談してるんだろうと思ったが、辺りの風景が緑豊かになっていた方に、気を取られていた。  ユーラシアが立ち上がった。光と同じ背丈、形である。黙って済ましていられると、どちらがどちらか解らない。 「へえ、似てるんだね。」 「私たち、元々双子だから。」 「そうなんだ。」 「さて、博俊さん、いろいろとお世話になりました。お陰で私はこうして立てる様になりました。でもね、まだ私も完全に回復してないですし、もう少し光と一緒に悪霊退治をして頂けないかしら?」 「まあ、良いですよ。だいぶ調子も出てきたし。それより、いろいろ分からない事だらけなので、教えて貰いたいんですけど、体調はいかがで?」 「あらまあ、私の体調を気遣って下さるのね? 素敵。」 「え、そんな、だって、当然じゃないですか。」 「うふふ。」 ユーラシアが笑顔で博俊を観察し始めたので、博俊は少しだけたじろいだ。そして光は、何お姉さんまで興味あるの? と言う不満そうな顔をした。 「そうね、私は最初の道標なのよね。ごめんなさいね弱弱しい恰好で。お陰で、あなたに必要な情報を与えられませんでした。」 「わ、私が与えてる・・・・」 「そうね、宜しくね。」 「あ、ある程度はね、でも、私も知らない事があるわ。だから、それについては教えて貰わないと。」 「はいはい・・・・」 光は、正体を知られるのがよほど嫌なのね。だったら、もう少し、体が悪い振りをして、光一人に任せましょうか。でも、この恋煩いが解決するまでに、暫く時間が掛かりそうね。まあ、ここまで来たのだもの、慌てる必要はないのかも知れないわね。  ユーラシアは、カプセルの中から丸太の椅子を2つ出して、博俊と光に座る様に言った。カプセルがそれ程大きく見えないのに椅子が2つ出てきたので、博俊は興味津々にカプセルの中を観察した。  ユーラシアは、カプセルの縁に座り、説明を始めた。 「最初にあなたに呼びかけたのは、私ではありません。」 「(やっぱり!)」 「あれは、大自然、私達大妖精を仕切る自然自体、あなた方の世界では、女神等と呼ばれてるのではないかしら。」 「自然自体?」 「私は大妖精なので、一応生き物です。勿論、光もね。」 光は焦って手をバタバタさせた。ちょ、ちょっと、変な事言い出さないでよ! 「この星は、あなたの世界の地球とは違うんだけど、地球とは互いに影響し合っている星なのよ。この星には6つの大陸があります。」 「もしかして、ユーラシア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極ですか?」 「それ、地球の大陸の名前よね。本質的には正解です。でもね、少し呼び方は違うの。それで、今はユーラシアにいます。私の名前もユーラシアです。また、ユーラシア大陸は一つの国になっています。国名もユーラシア。紛らわしくてごめんなさいね。」 「まあ、僕記憶力は弱いんで、助かります。」 「ふふ。それで、妖精は、自然とお話できるのよ。そして、大妖精は大自然と連携して、この世界を統率するの。でもね、病原体が現れたの。これね、人間界の人間達が原因らしいの。」 「あー、それ言われると、僕は辛いです・・・・」 「あなたの責任じゃないわ。でも、人間全体の責任かもね。大脳と言う自由気ままな、我儘な臓器が発達してしまったので、悪さを始めたのね。最初は自然がそれを受け止めていたんだけど、だんだん悪さの度が過ぎてきて、受け止められなくなってきたという訳。例えば、地球温暖化、核開発、大気汚染、資源の使い過ぎ、数えるときりがないわ。」 「僕に何ができるんでしょうか。」 「病原体を退治して貰えますか? それができるのは、あなただけなんです。私達にはできません。」 「そうなんですか・・・・でも、僕ら太陽の白矢、だっけ?」 「そう。」 「で、化け物達を浄化させましたけど・・・・」 「あなたが化け物と呼んでいるのは、病原体が作り出した悪霊が、生命を吸い取って変質させた物です。太陽の白矢は、浄化させる為のものです。この辺り、光からお聴きになって?」 「あー、病原体は、悪霊の上の悪者かあ!」 「うん。」 「あなたの想像通り、変質って、人間性の喪失だと思って差し支えないですよ。たがが外れるとも言えますね。」 「待って、昨日倒したのは、悪霊、ですよね?」 「はい。病原体はサザンクロス、あなた方の所謂南極大陸にいます。そして、各大陸に大悪霊を送り出し、その大悪霊が悪霊を量産したのです。この病原体、大悪霊、悪霊は、太陽の白矢では倒せません。太陽の七色エネルギーが必要です。」 「ははん、それを僕が持っている、と。」 「正確には与えられたのです。本来、七色エネルギーは私達女王が持っているものです。大自然は、それぞれの女王が悪霊に襲われる時に、緊急でその七色エネルギーを回収したのです。万一にも病原体に利用されない為に。」 ん、昨日の光の説明とちょっと違う? 「そうか、じゃあ、空を飛んだり、疾風の様に動き回ったりする能力は、その七色エネルギーの能力だったんですね?」 「その通りです。それだけじゃないわ、あなたは今、水中でも、土の中でも無敵ですよ。それから、体が自由に伸び縮みしたり、いろいろな能力を持っているのですよ。」 「無敵なんだ・・・・うわあ。」 ユーラシアは、ちらっと光を見た。光はドキドキしている様だった。 「ここから先は、光と悪霊を退治しながら体験していって下さい。」 「え、説明終わりですか?」 「はい、説明しても解らないでしょうから。そうね、後は、あなたは、ユーラシア、アフリカ、パシフィック、アトランティス、オセアンを回って、その国々の大悪霊を倒して下さい。その後、サザンクロスで、病原体があなたを待っています。」 「わあ、先が長いゲームだなあ・・・・」 「そんなに長くないかもしれませんよ。現に、まだ24時間経ってないのに、あなたは結構もう成果を上げてますから。」 「それもそうだな・・・・えっと、ユーラシア女王?」 「ウフフ、ユーラシアで良いですよ。」 「えー、でも・・・・・あのね、他の国にも、女王はいるんですよね?」 「その通りよ、あなたは想像力があるわ。」 「光は、ユーラシアの・・・・」 光が博俊の斜め後ろで、シーッというポーズをとった。 「ユーラシアの妹なんだから、やっぱりある程度特殊な能力があるんですか?」 「結構俊敏でしょ? 体力もあるわよ。便りにしてもらってよいですよ。」 「あの、最初にその大自然さんが、僕に、5人の協力者を向かわせるって言ってたんです。協力者って、ユーラシア女王の事なんですか? それとも光の事なんですか? それとも、別の誰かの事なんですか?」 「・・・・光よ。各国に一人ずついるわ。」 「合わせて5人、か。僕は、たまたま光とは会えたんだけど、他の4人と会えるんだろうか・・・・」 「会えますよ。なにしろ道標がいるのだから。」 「その時、この人がその協力者だって、分りますか?」 「いずれ分ると思いますよ。」 光は、ふーっと冷や汗をかいていた。  ユーラシアは、二人の去り際に、付け足した。 「これからは、私もここで踏ん張ります。行ってみれば、こことあなた方のいる場所の間を浄化していければと思います。そして、私の能力が完全に戻ったら、あなたたちは次の国に行って下さい。この国は私が守ります。」 「分かりました。頑張ります。人類を代表して・・・・かな? 何だか責任重大だなあ。」 ユーラシアはクスクス笑っていた。
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