千道の夜に啾々と

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夜を越えても、苦しくなく、ほろ苦いだけだった。 自動車の制動灯が、宵の足跡の如く遺る。 電球式の信号機は、暗黒の中でなるべき自分を見つけたようだ。 闇に染まると、闇に輝く自分がいることに、気づき、光とは何か考える。 光は必要な存在で、闇が有るからこその価値。 ────夢と現実も、そうではないか? 思うに、夢に出てくるのは一人では無いだろう? 誰かの為に夢を見ているのではないか? 誰よりも他人の評価が欲しくて、想像するのだろう? 生きがいを見つける為に、 『君のままでいいんだよ』 と、肯定されるために、存在を見出してもらうのだろう? 現実と、かけ離れた妄想に耽る今に、 恥ずかしいくらいの自分を、 届かない誰かの隣に、出すのだろう? 、今を生きているなら、其処に、ほろ苦い影は立っているか? 、今を生きているなら、彼処に、明るい光は鼓動しているか? 何方にも輝く自分が住んでいるとして、 この蒼い星で過ごしていくためには、 もう喪ってしまった感情を、 何色に染める必要があるか、考えることだ。 「今」、「今」が死んだ。死ぬ。そして、 「今」、「今」が廻る。 いつか必ず、 『今』は、静謐な桜と、散る。 ────いや、もう──散ってしまったのだろうか。 路に散り詰められた花道を、道標に、 『夢に住むのは、どこか理想的な自分で、現実に住むのは楽観性を見失ってしまった虚しい人間だ。光に包まれる道に進む時、後ろには濃い影が生まれる。逆に、暗闇に向かっていく自分には確定することの無い、淡くて言葉にできない焦燥が、物語の宵に、只啾々と、はにかんでいるようだ。闇にしんなりと酔う夢幻処の想い出は()を求めてるよ』
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