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東京都下の田園地帯にある小さなアーケード街。
深夜3時をまわる時間帯ゆえに軒並みシャッターが閉じているのは当たり前だが。
ゴーストタウンさながら、夜目にも侘しい雰囲気がハッキリうかがえる。
「じゃあ、防犯カメラは、すべて撤去されてたんですか?」
若い刑事が、おっとりしたガラにもなく声を荒げる。
アーケード街の入り口の直近の惣菜屋の2階住居からタタキ起こされてきたばかりの商店会長は、フランネルのパジャマのソデをオロオロとスリ合わせながら、自分の店のシャッターのすぐ前でションボリ肩をすくめた。
「いやぁ。だって、ねぇ。刑事さん。"シャッター通りのなんちゃら"ってヒトは、防犯カメラのある場所には来ちゃくれないらしいってんで。ウチのセガレやら、青年会の若いモンらがね。取っぱらっちゃったんですよ、防犯カメラ。つい一昨日。その、なんちゃらって画家のSOSだかナントカっていうのに、"ウチの商店街にぜひ絵を描いてくれ"って、メッセージを書いたらしいんですわ」
「メッセージ?」
刑事は、スーツの胸元から自分のスマートフォンを取り出すと、SNSアプリを検索して閲覧するなり、愕然とした。
「これ、公開のコメントに書きこんでるじゃないですか! 防犯カメラを撤去したってことを」
「はぁ、そうなんですか? わたしは、スマホとかネットとか、そういうのはサッパリなので。セガレにまかせっきりだから、そのヘンのところは」
「あのねぇ……。世界じゅうの人が、この商店街に防犯カメラがないって事実を知ることができたんです。そのせいで、ここが殺人の犯行現場に選ばれてしまった可能性だって……!」
「そんなこと言われたってねぇ。わたしは、何がなんだか……」
商店会長は、ピンとこない顔つきで、白髪まじりの頭をしきりにナデまわす。
そこへ、くだんの警部が助け船を出すように大きく声をかけた。
「おい、会長さんへの聴取は、所轄にまかせて。こっち来いオマエ!」
「は、はい!」
若い刑事は、底のスリ減った革靴の上にシューズカバーを履いてから、アーケード通りの中央に広く張りめぐらされた黄色い規制テープを身軽に飛び越えた。
商店街にありがちなモザイク模様のコンクリートタイルを敷きつめた路上に、鑑識の投光器がいっせいに照射されている。
白々した冷ややかなスポットライトの中心には、黒いTシャツとラフなカーゴパンツを身につけた若い女がアオムケに倒れていた。
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