★★★ over

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 なんとね、と由奈が切り出すと、ちょうどチャイムが鳴り、担任の(しば)ちゃんがやってきた。  みんなバタバタと席につき、ねっとりとした空気は散り散りになった。  柴ちゃんは白髪のまざった前髪を軽くかきあげ、新年の挨拶をはじめた。  明希の席だけが、ぽっかりと空いている。 「えー……。知ってる者もいると思うが、ご家庭の事情で、石井が学校を辞めることになった」  教室中がざわめき、わたしは止まった。  言葉も、呼吸も、思考も。  すべてが止まった。  みんなに静かにするよう促す柴ちゃん。  親父がヤバい仕事やってただの、夜逃げだの反社だの、どれが真実かわからない情報を無責任に口にするクラスメイト。  わたしは縋りつくように、机のなかのノートの角をぎゅっと握った。 「せんせーい。安藤さんが体調悪そうなんで、保健室つれていきまーす」  由奈がわたしの腕を掴み、教室の外へとずるずる引っ張り出した。  人気(ひとけ)のない廊下で、足元からすうっと冷えていく。 「ちょっと小春、どうしたの? 顔色やばいよ。保健室まで歩ける? それにしてもびっくりだよね、明希のこと。わたしさ、昨日ぐうぜんコンビニで明希のこと見かけたんだよね。小春にごめんって謝っといて、なんて言うから、明日学校で会うんだから、ちゃんと自分で謝りなよって言ったんだけど……。あんたたち、喧嘩でもしてたの?」  なしだって言ってたのに。  ごめんは好きくないって言ってたのに。  どうして最後にくれたものが、それなの?  指先から滑り落ちたノートが、はらりと開いた。  くまぬちゃんが頼りなく、わたしに微笑みかける。  毎日のように眺めたくまぬちゃんには、もう愛おしさしかこみ上げてこなかった。          ―― 了 ――
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