☆☆☆ intimidate

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 正確には、教室に落ちていた佐野のシャーペンを見つけて拾って、本人に返さなかった。盗んだというのは少し違う気もするけれど、それでも盗んだうちに入る。  どうしてリュックから出して、うっとりと眺めてしまったのだろう。  誰もいない放課後の教室で、完全に油断していた。  そもそも盗んだりなんてしなければ――。  わたしを白い目で見る佐野が瞼に浮かび、血の気がさあっと引いた。  音を増す鼓動が、胸を突き破る。 「おっ、お願い。言わないで。お願いだから、誰にも言わないで!」  懇願しながら、わたしは明希に詰め寄っていた。  一歩、二歩。  わたしと明希の間には、もう距離がない。 「どうしようかな」  教室でいつもヘラヘラとお茶らけている明希の目が、鋭くわたしを見下ろした。盗人(ぬすっと)に向けるには正しい眼差し。  正し過ぎて、痛い。 「お願い……。秘密にして」  声も膝も、すべてが震えていた。  それでも必死に絞り出した願いを、明希は容赦なくばっさりと切り捨てた。 「言わないでいたら、俺にメリットってなんかある?」
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