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桜の花びらが舞う中を、おばあちゃんに抱かれて家路につく。これはかつておばあちゃんの家に預けられた時の光景だ。つまり、わたしは今、過去の世界を体験している。
「今日は天音ちゃんの好きなオムライスにするからね」
おばあちゃんの優しい声は、夢にしてはあまりにもはっきりと聞こえた。おばあちゃんのぬくもりや、桜から微かに香ってくる桜餅のような香り。五感で感じる感覚すべてが本物にしか思えない。
前にVRや三城博士の発明品で仮想体験をしたことはあるが、それらを凌ぐ程の現実感だ。
おばあちゃんが夕飯の準備をしている間、わたしは自分の全身を姿見に映してみた。久しぶりに見る幼い自分と対面して、なんとも言えない不思議な気持ちになる。
この頃のわたしはおばあちゃんにそっくりで、周りからはかなりチヤホヤされていた。自分で言うのも何だが、幼い頃のわたしはめちゃくちゃ可愛かったのだ。
「さあ、出来たわよ」
おばあちゃんが食卓に三人分のオムライスを並べる。
「天音にはちょっと多すぎないか」
「これくらい食べちゃうよねえ、天音ちゃん」
十年前に亡くなったおじいちゃんがまだ健在だ。当時六十歳ぐらいのおじいちゃんは年のわりには若い方だが、おばあちゃんが若すぎるので親子にしか見えない。
すべてが当然のようにそこにある。わたしは夢と現実の境目がわからなくなってきていた。
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