シマノチ

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シマノチ

 小五の頃、海に連れて行ってもらったことがあった。防波堤の上を歩いていた時、足を滑らせて海側に転落してしまったのだ。その時間帯が丁度引き潮で、かつ落下地点に柔らかい砂が堆積していた為、足を擦りむいた程度で済んだ。すぐ近くには錆びついた錨がいくつも放置されていて、少しずれていたら大怪我をしていたかも知れなかったのだ。  落下した当人であるわたしは、後から親に聞かされただけで、よく覚えていない。海を眺めながら歩いていた記憶はあるが、その後どうやって家に帰ったのかはわからない。  この現象が起こるのは、わたしが怖い思いをしたときに限られるようだ。理絵の言う通り、わたしの防衛本能が記憶に作用している可能性もあるが。 「ねえ、天音。さっきからずっと気になってるんだけどさ」 「……ん?」  わたしの思考に理絵の声が割り込んできた。 「あんたのことをずっと見てる人がいるんだよね」  理絵はそう言って、わたしの頭上に目をやった。振り返ってみるが、この公園にはわたしたち以外に誰もいない。 「……見てるってまさか」  理絵がゆっくりとうなずく。それはつまり、霊的なものがここにいるということだ。
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