14人が本棚に入れています
本棚に追加
「おじいさんはずっと心配していたのよ。記憶力が良すぎると、嫌なことも忘れられなくなるかも知れないって」
そう言って、おばあちゃんは隣の部屋に目をやる。
「そのことだけど、もしかしておじいちゃんは記憶を消せる力があったりする?」
「ええ。あの人は誰かが悲しんだり辛い顔をしていると、話を聞きに行くの。もし、覚えておく必要がなかったら、記憶ごと消してしまうためにね。とても優しい人なのよ」
亡くなるまで、おじいちゃんはわたしの事を気にかけてくれていた。あれはそういう意味もあったのだ。
「俺は天音を助けるために生まれてきた、なんて言っていたのよ。まさか、幽霊になってまであなたを守っているとは思わなかったけれど」
おばあちゃんの優しい眼差しに、遺影のおじいちゃんが照れているように見える。
もしこの赤い石が霊を可視化するものなのなら、おばあちゃんに会わせてあげたい。じっと見つめてみるが、使い方がわからない。
「それ、ちょっと見せてくれないかしら」
おばあちゃんがわたしが見ている石に反応した。手渡すと、おばあちゃんはとても大切そうに手に取って目を細めた。
「懐かしいわねえ。どこで無くしたのかと思っていたけれど」
「その石、知ってるの?」
「知ってるも何も、元々わたしが貰ったものだもの」
「……え?」
おばあちゃんの言葉がきっかけで、記憶が蘇ってくる。
五歳のわたしは、この家の玄関先に赤いペンダントが落ちているのを見つけた。最初は綺麗な石だと思う程度だったが、突然光り始めて、周りに沢山の浮遊霊が見えたのだ。
今だったら大喜びするところだが、当時のわたしは無垢な子供。怖くなったわたしは、出来るだけ石を遠ざけるため、公園まで持って行ったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!