銀世界の迷い子

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 人の形をした銀色のそれは、わたしを確認すると、背を向けて棚をゴソゴソし始めた。ついに異世界人に出会ってしまったのか。  銀色異世界人は襲ってくる様子はないが、警戒するに越したことはない。その姿をつぶさに観察してみる。  全身がつるつるした光沢のある銀色。体型はほぼ人と同じで、わたしより大分背が高い。 「マイネームイズアマネ。ドューユースピークイングリッシュ?」  異世界人に言葉が通じるか、言語人口が最も多いという英語で話しかけてみる。ちなみにわたしは英語は話せない。  異世界人は振り返ると、じっとこちらを見た。見ると言っても、目があるのかはよくわからない。銀色の頭部には、小さな穴が沢山空いているだけ。顔が見えないので、男か女か、そもそも男女の区別があるのかも不明だ。とりあえず胸に突起物はついていないので、わたしの中では彼と呼ぶことにする。  彼は返事をする代わりに、ストーブの上に何かを並べ始めた。網に載せられ少しずつ膨らみ始める白く四角い物体。角切り餅だ。  異世界人がこんな渋い文化を知っているとも思えないが。いや、捕らえた日本人の脳から直接情報を読み取った可能性もある。  何にせよ、心を許すのはまだ早い。
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