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きな粉餅の魔力というか、空腹と寒さに負けたというか。施されてちょっと敗北感を感じていると、異世界人はストーブの上の網を片付けて、やかんを載せた。
餅は美味しかった。しかし、まだ警戒は緩められない。いきなり、あのやかんの熱湯をかけられないとも限らないのだ。
彼はカップを二つ用意して横のテーブルに置き、今度は小袋をわたしに見せてきた。
右手に紅茶、左手はインスタントコーヒーのパックを持っている。
「餅にはどっちかというと緑茶では」
つい、率直な意見を言ってしまった。目はないが、彼がじろりとこっちを睨んだ気がした。
「じゃ、じゃあ、珈琲プリーズ。ウィズシュガー」
ちょっと発音をそれっぽくして答えてみた。彼はお湯が沸くのを待ち、慣れた手付きでコーヒーを入れる。
手渡された漆黒の飲み物を一口頂く。コクのある中に程よい酸味。それを引き立たせる砂糖の甘さ。思ったより、きな粉餅に合う。
決して施しに屈した訳では無いが、彼は悪い人ではない気がしてきた。
体も温まってすっかり和んでいると、ふと魔王の顔が脳裏をよぎる。そう言えば、理絵はどうしているのだろう。
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