爪紅

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「不思議と鳳仙花を見るとお前を思い出す」 「――――」  (すき)を突いて下へと滑り落ちようとする手をおざなりにとどめて、いなすように(そう)をにらんだ。   「それは私がこの花の名を教えたからだ。蒼のように図々しく、鬱陶しいほど赤い花を咲かせてくれる」 「そうか。赤い花はさぞかし綺麗だろう」  つぶやいて蘇芳(すおう)の肩に顎を置いたまま小さく笑った。 「花は明日も咲く。染料が欲しければ葉でも染めることができるし。生地は滑らかで白いほど紅色が映える」 「白いほど美しくのか」  なぜか嬉しそうにつぶやく蒼と視線が絡んだ。  刹那、言葉のあやに気づいて蘇芳は耳まで染まった。 「ああ、いやっ。そういう意味では――!」  口から出た言葉は取り消せない。  やにさがる蒼と慌てる蘇芳。  困ったことにお天道様は――まだ高い。  遠くから聞こえる振り売りの香具師(やし)の声。  慌てて夕餉(ゆうげ)の魚に気を逸らした。 ※※※ 続きは皆様のご想像にお任せします |ω・)ノ  資料 「川端康成全集 1」新潮社 「ホウセンカの絵本」農山漁村協会
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