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空は果てのない淡い瑠璃色。
真綿色の入道雲がこんもり高く伸びあがる。
炭酸が弾けるような蝉の声に涼やかさは皆無だ。
肺の奥まで焦がしそうな熱風が軒に吊るした風鈴を揺らす。
おざなりな鈴の音は気怠さを増すばかり。
真夏の太陽は天辺を過ぎても衰えを知らない。
※
すだれをつるした縁側に浴衣姿の青年と少女が向かい合って座っている。
期待に目を輝かせる少女は癖のない黒髪を肩で切りそろえたおかっぱ頭。日に焼けた両腕はまるでおやつに食べたかりんとうの色。
対するこちらは体つきは細く儚げで中性的。痩せた面差しは透き通るように白い。蘇芳という名前とは正反対の印象だ。
「――ここに全部入れて」
指示されるままに庭で摘み取った鳳仙花を乳鉢に入れると、少女は身を乗り出すようにして蘇芳の手元をのぞきこんでくる。
(今年はたくさん咲いたな)
小さな乳鉢から溢れそうになる薄紅の花びら。
金魚の尾ひれのような花を丁寧に、すりこぎで潰していく。
「潰しちゃうの?」
「そう、ひとつ残らずね」
つぶやいて乳鉢から逃げ出すようにこぼれ落ちた鳳仙花をつまみいれた。
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