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少女は思い出したようにやってくる近所の子供だ。
子供は嫌いではないがしつこく遊んでくれとせがまれて根負けした。
蘇芳は視線を庭に滑らせて、少女に告げた。
「――あの咲いてる鳳仙花を残らず摘んでおいで」
庭の片隅で咲く――赤い鳳仙花。
数年前に勝手に咲いて、翌年からは零れ種が花を咲かせている。
(そういう気ままなところもあいつと似ている)
好んで植えているわけではないが、抜いてしまうほど嫌ってもない。
だが、全ての花を摘む行為は――鳳仙花を蒼に見立てていじめているようで気が晴れるどころか胸が痛んだ。
※
「次はこれを入れるよ」
手元を食い入るように見つめる少女の前に小さな葉をつまんで見せた。
特に珍しいものではない単なる雑草。その辺に生えている酢漿草だ。
「どうしてそれを入れるの?」
「ミョウバンがあればよかったけれど生憎と切らしていてね。代わりに酢漿草を入れよう」
混ぜ合わせた花をひとまとめにして強く押すと、じわりと赤い汁が滲んだ。
手を伸ばして――細い絵筆をとった。
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