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___ソメイロアトリエ。
それは、ある有名な画家の持つアトリエの名だった。発展した都市部から少し離れた郊外に位置する。
画家の名は『ガードナー』朝早くにアトリエに来ては、思うがままに絵を描いて、そのまま一日を終える。それだけを聞けば、一風変わった画家のように聞こえるかもしれないが、そんな彼にも弟子たちがいた。
その中でも、彼が目をつける画家見習いが一人。
彼は『ラック』三ヶ月ほど前に、このアトリエでガードナーの門下生となっている青年だった。
少しボサボサとした黒髪に、大きめの縁なしメガネ。休憩のたびにタバコを吸うようなヘビースモーカーであり、そのせいか、実際の歳よりも幾分老けて見える。彼は、その濁った瞳を真っ白なキャンバスにむけていた。
「……おや、今日は筆が進まないのかい?」
「いんや……ちょっとぼーっとしてただけだ。オレは……まぁ、描きたい時に描ければいいから」
「それでいい作品ができるんだから、大したもんだよ」
行儀悪く、師匠であるガードナーにタメ口をきくラック。周りには五名の門下生がいたが、そんな彼の悪態を気にも留めなかった。
そうして少しすると、ガードナーがアトリエを見下ろすように部屋の前へ立った。そこで、注目を集めるように手を叩く。
「今日は、新しい弟子を迎えようと思う」
「いきなりですね。また、いい絵を描く人を見つけたんですか」
そう聞くのはラックの隣に座っていた門下生だ。彼はもう、半年も前からこのアトリエにいる人物であり、ラックからしてみれば先輩に当たる存在だ。
……というより、ラックがもっとも新しい弟子であるのだが。
そういうこともあってか、いつもは物事に関心の薄いラックも、後輩ができるということで、正面を向いて話を聞こうとしていた。
「いや、今回はそういう訳じゃなくてね。……まぁ、とりあえず入ってきてよ」
そう言うと、一拍をおいてアトリエの扉が開け放たれる。
そこからやってきたのは、一人の少女だった。
まだ、そう年端もいかない少女だ。身長は160センチ前後といったところ。加えて童顔であるため、中学生と言われても納得できそうだった。
だが、何より目を引くのが、彼女の“雰囲気“。
白い長髪に、ライトブルーの瞳。四肢も細く、その四肢から見える肌も白い。線の細い顔と体格で、最初の印象は“透明感“と言うのが正しいだろう。そう言えるほどに、その少女の纏う雰囲気は透き通っていて、儚かった。
「えぇと……リリィです。絵を描くのが趣味の……普通の女子高生です。よろしくお願いします」
「……と、言うわけで、彼女はリリィちゃん。これからよろしく頼むよ」
そうガードナーが締めくくると、門下生たちは小さく手を叩いた。しかし、誰もが目の前に現れた、文字通り絵の中にいるような少女に、呆然としていた。
___そんななか、ラックが声を上げた。
「……キミ、絵、好きなの?」
「はい。でも……最近伸び悩んでるんです」
「へぇ、それで、お悩み解決のためにセンセイはこの子入れたんです?」
「いやいや言ったろう。今回は訳が違うってね」
「そのワケって?」
「彼女は、私の娘」
「マジすか」
「__の友人の妹だ」
「「「「「「案外遠かった!」」」」」」
そこで、門下生全員の声が揃った。
「それで、この子の友人から、私の娘、そして私と人伝があってね。どうしてもと言うことで特別に私のアトリエに招待したのさ」
「ふぅん……でも、それ以外にもなんかありそうっすけどね。センセイが身内を私情で入れるとも思えないし」
「さぁ、それはこれから知って行けばいいさ」
そう言ったあと、ガードナーは、傍らにいたリリィがラックを見つめているのに気がついた。
「ん、どうしたんだい」
「いや……あの人、ちょっと気になるなって」
「……え、オレ?」
「…………ふむ、これも何かの縁だ。私の元で絵を描くより、とりあえず彼の元で描いてみなさい。君の絵の参考になるかもしれない」
「あの人が?」
「おい、なんだその『え、この人が絵描くの?』みたいな反応」
「………………」
「大丈夫。このアトリエには私からスカウトした門下生がほとんどだ。画力は保証するよ」
「わかりました」
そう言うと、リリィはラックの横に来て、近くの椅子を寄せてから座った。そのままラックの方を見て、微笑む。
「じゃ、よろしくお願いします」
「……ラックだ、よろしく」
それから、二人の絵描きははじまった。
□□□
翌日、ラックは予定より遅れてアトリエに入った。それも日常なのか、アトリエにいる人間は誰も気にしない。そのまま彼が自身の持ち場へ向かうと、先に座って絵を描いていたリリィの姿があった。
「……なんかその絵、センセイの絵の雰囲気に似てる」
「あ、おはようございます。……って、開口一番にそれですか」
そう言うリリィのことは気にせず、ラックは横に座った。
「……私、あんまり“自分“って言うのがなくて、何をやっても人のマネばかりで、こんな感じに誰かの作品を模したような物になっちゃうんです」
「へぇ、それが、最近の伸び悩み?」
「はい」
「ふぅん……」
そう言って、ラックは近くの画材に埋もれて置いてあったキャンバスを手繰り寄せた。どうやら未完成の絵が描かれているようで、ためらいもなく彼が描き始めたところから推測するに、彼の絵らしい。なんともまあ、乱雑に置かれたものだ。
だが、そこに描かれた絵は非常に繊細なタッチで描かれていた。
「……キレイ」
そんな言葉を、不意にリリィは口にした。
彼が筆を走らせ始めたのは、小さな船着場の風景画だ。朝日の昇る早朝、澄んだ空気がキャンバスから飛び出してくるような透明感。船の写る水面も、まるで清流の水を汲んできたような、淡く繊細なタッチで描かれている。その上に浮く数隻の船にはどっしりとした重量感。それが絵全体を引き締めていた。
思わず、リリィは息を呑む。
どれだけ見惚れていたのだろうか、しばらくラックが筆を動かした後、彼は大きく伸びをした。
「……じゃ、オレは休憩。ニコチンを入れてくる」
「えっ」
「ん、あぁ、そうか。仮にもセンセイからの指名でキミの面倒を任せるてるしな。……ふむ、じゃあそうだな。他人の真似事をしてしまうと言うのなら、あえて真似をしてしまおう。よし、そうと決まれば、オレが休憩から戻ってくるまでにオレの絵を真似しろ。言われなくてもわかるだろうが、あくまでタッチを真似しろよ」
「わ、わかりました。それで、いつぐらいに戻ってくるんですか」
「さぁ、オレの気分だ」
そう言って、ラックはリリィ一人を置いてアトリエを出て行った。
残された少女は、目の前にあるキャンバスを見つめる。吸い込まれるような透明な世界。それを目の当たりにしていた。
「……やってみよう」
そう言って、彼女は真っ白なキャンバスを取り出して、筆を乗せた。
□□□
「__ぜんっぜんうまく行かない……!?なんでっ……」
ニコチン吸引機ことラックがアトリエを去ってから二時間半。少女は目の前にある、淡いだけの色が乗った己の絵を前に項垂れていた。
最初の絵は、初めの一時間で下地を完成させるも、ラックの描いたものとかけ離れていると感じ断念。次に描いた絵は、最初よりも時間をかけ、完成が見える段階まで至ったが、それでもラックの描いた絵に届かないと感じて今に至る。
__どう足掻いても、彼のような世界観を創り出せない。
そうリリィは感じていた。
透明感を求めれば、インパクトの欠ける絵になる。かといってコントラストを重要視しようにも、ラックのような絶妙な透明感が生まれなくなる。
いつもならば、無意識に他人の作品のタッチを盗み取ることができたリリィだったが、なぜか彼のものだけはうまく行かなかった。無意識にマネをしようにも、意識的にマネようにも、うまく行かないのだ。
そこで、背後から一人の男が声をかけた。
「やぁ、調子はどうだい」
ガードナーだった。腕に付着した絵の具を見るに、絵の制作に区切りがついたところらしい。片手にはマグカップを握ってコーヒーを飲んでいた。
「ってあれ、この絵、ラックくんの絵じゃないか。どうしてこれを見て描いてるの?」
「それが、そのラックさんに『この絵を真似て描いてみろ』って言われまして……」
「ほほう。そりゃあまた、ひどく難しい課題を出したもんだ」
「え、先生でも難しいんですか」
「やってみないとなんとも……でも、一筋縄じゃいかないだろうね」
そう言って、ガードナーはラックの絵に手を添えた。
「彼の絵は、この繊細なタッチと透明感のある世界観が特徴だ。それはわかるだろう?」
「はい」
「問題はここから。彼の絵っていうのは、繊細で透明にも関わらず、軽っちい絵じゃない。どこか絵に“芯“のようなものがあって、それが絵の土台になってるんだ。それが、彼の絵を支えているんだ」
そう言いながら、ガードナーはキャンバスから手を離し、一歩だけ後ろに離れた。
「絵というのは個人の個性や思想があらわになる。彼はあんなカンジだけど、この絵には繊細さや透明感、優しさなんかも感じられる。それでも、そんな儚い心を持つ彼にでも、こんな芯のある絵を描けるということは___」
そこで、ガードナーが一拍を置いた。
「彼なりの、自分の固い意志の現れなんだろう。過去に何があったかは知らないけれど、彼にはきっと、彼の根幹となるような何かが、生まれるきっかけがあったんだろうさ」
「根幹になる……何か……」
「そう。どんなに淡く、儚く、透き通るような絵でも、その根幹がしっかりとしていないと絵として成り立たない。そして、その繊細なタッチと絵の基盤となる根幹の絶妙なバランスが、彼の絵を真似るのを極度に難しくしている原因でもある」
そこで、リリィの方を振り向いた。
「だが、真似ると言ってもただ真似るんじゃダメなんだ__自分色で染めてみな。そのキャンバスを」
そこまで言ったところで、アトリエの扉がおもむろに開いた。気づいた二人がそちらへ目をやると、休憩していたラックが帰って来ていた。
「あれ、センセイじゃないっすか。どうしたんすか」
「ちょっと行き詰まってたみたいだから、アドバイスをね」
「どのくらいアドバイスを?」
そう聞くと、ガードナーはリリィに話した時と同じような内容をまとめてラックに伝えた。数回相槌を打った後、ラックは軽く会釈をして、入れ違うようにリリィの近くへ寄った。ガードナーは一度アトリエを出るようだ。
「聞いたよ。もう、結構答えに近づいてるんじゃないか」
「それはそうでしょうけど……」
「まぁ、難しい課題を出した自覚はあるし締め切りは伸ばすよ。ゆっくりやっていけばいいさ」
そう言って、ラックはリリィの近くに座ってまた新しいキャンバスに筆を走らせ始める。
「……オレの絵は、昔はこんなにしっかりしてなかった。儚いだけの、薄いだけの、軽い絵だったよ。でも、それだけじゃ絵として成り立たない。だから、探したよ。オレの、自分だけの個性と根幹を」
絵を描きながら、彼は話した。
「センセイも言ってたけど、絵には自分が現れる。……思い当たる節があるんじゃないか、キミ、絵じゃなくても、他人の仕草や思考、人格をマネることがあるだろう。それが、モロに絵にも影響してるんだ」
そういうラックの言葉に、リリィは目を見開いた。まるで占い師のように、見えないはずのことすら言い当てる彼に、大層驚いた様子だった。
「__オリジナリティ。それは、社会でも絵でも重要だ。二番煎じじゃあ、誰も何も認めてくれない。だから、どれだけ辛くても見つけなくちゃならない。“自分“が何者なのかをな」
そう言って、しばらく描いた後、ラックは筆を止めた。少し首を捻ると、筆を置いて立ち上がる。
「行き詰まった。それに、絵を寝かせる必要もあるし、オレは帰る」
「私も帰った方が?」
「いや、いい。最低でもセンセイがアトリエに残ってるだろうから、適当に出てっても閉めてくれるし問題ない」
「わかりました」
そう言って、また一人リリィだけがアトリエに残る。ラックの座っていたところに残されたのは、これまた美しい風景画の下書きだった。その目の前に立って、絵を見つめる。
「……私の、根幹。私のオリジナリティ」
そう呟くと、直後には真っ白なキャンバスを用意し始めた。用意が出来次第、筆を持って色を載せていく。だが、これまでのようにスラスラとは進まない。
___だって、彼女はラックのキャンバスに背を向けて描いているのだから。
□□□
翌朝、いつものようにラックは遅れてアトリエに入ってくる。すでに他の門下生たちは絵を描いていたが、その間を何食わぬ顔ですり抜け、彼の絵の置いてある作業場へ向かった。
すると、彼のキャンバスと面を向かい合わせるような形で、近くに一つの絵が置かれているのに気がつく。
まだ真っ白ではあったが、よく目を凝らすとうっすら鉛筆で線が書かれたような跡があった。紙面を撫でるとうっすら湿っていたので、水を含んだ筆を乗せた後に書いた線らしい。
「これ……」
何かを察したのか、ラックは無愛想な顔についた口を少し緩め、満足したように振り返ると自分の絵の制作に取り掛かり始めた。
少し描いたところで、アトリエの扉が勢いよく開かれる。あまりの衝撃に場の全員が扉に視線を送った。
「あ、えと……!すみません!遅れました!」
「あぁ……別にいいよ。ほら、あいつもさっき来たところだし」
「指を指すな。オレは遅れてるんじゃなくて、元々こうなんだ」
「はいはい」
すると、足早にリリィはラックの作業場に向かって、すぐに白いキャンバスの前に腰を下ろした。
「やっぱり、それ、キミの絵だったんだ」
「はい。少しだけ、自分の絵を描いてみようと思ったんです。……でも、まだうまく行きませんけどね」
「……ふぅん」
そう言いながら、ラックはリリィのキャンバスの前に立った。
「キミは、どんな世界がいい?」
「えと……極楽浄土とか、そういうやつですか」
「仏教じゃないわ」
そこで、一つ小さなため息をついた。
「どうやら、キミはまだ他人の目を気にしすぎているらしい」
「……え?」
「人格や性格、絵柄を真似るのは、それが“もっとも正解に近い“と思ってるからだろう。他人の方が間違ってないし、優れてるから自分はそれを真似してればいい。そう思ってる」
「確かに、そうかもしれませんね」
バツが悪そうに、リリィは笑った。
「__オレは、間違ってるって言われてたよ」
小さく、そう言った。
「薄い色に、淡い配色。絵として不完全。そういう評価だった」
「そう、なんですか……?」
思いもよらない話に、リリィは目を開いた。
「あぁ、だって、“オレが初めて自分色で染めた絵“だったからな」
「……初めて?」
「人の真似事をやめて、自分の描きたい絵を描いた結果だよ。自分の求めていた世界は、どうやら他人には理解されなかったらしかった」
「えっ、真似事って__」
「ちょうど、キミと似たような境遇だったよ。……でもな、どれだけ悪く言われても、オレはオレの好きな世界を描き続けた」
振り向いて、彼は彼自身のキャンバスを見つめた。
「自分の色が好きだった。どれだけ淡くても、儚くても、それでもオレはそんな絵を描きたかった。その薄っぺらい色で、キャンバスを染めたかった」
描き途中の風景画。まだ色の乗り切っていないぼやけたキャンバスを見て、彼はつぶやいた。
「オレは、歩き続けたよ。評価されないこの世界を、染めても薄いこのキャンバスを」
最後に、彼は少女に向き直った。
「__なぁ、キミはどんな世界がいい?」
「どんな、って……」
「真似てしまうなら真似ればいい。他人の世界がいいなら、そこを歩いてみればいい。__その中で、自分の色があれば吸い上げればいい。そうやって自分の白いキャンバスを染めるんだ」
そう言って、彼の背後にあったキャンバスを指差した。
「それでできたのが、オレの色で染め上げた、オレのキャンバスだ」
そこまでいい終えると「それだけ言いたかった」と振り向いて、そのまま彼は絵の制作にもどってしまった。
「私は__」
小さく、その背中に声を飛ばす。
「……人の真似をするのが、正しいと思ってました。周りに合わせて、それで生きていく。それが大切だと信じて疑わなかった」
彼女は、置いていた筆を握った。
「でも、あなたを初めて見たときに、きっと私は思ったんです。私は、あなたが羨ましかった。他の人とは一線を画すような、そんな何かを持ってるみたいで、はっきりとした個性があるみたいで、とても羨ましかったんだと思います」
たっぷりと水を含ませ、軽くそれを落とす。そして、淡い色を載せていく。
「そして、あの日、初めてあなたの絵を見た日。あぁやっぱり、この人は他の人とは違うんだなって思いました。だって、あなたみたいな儚くて、幻想的で、優しい絵を描く人なんて見たことありませんから」
サラサラと、筆を走らせる。キャンバスの上で、踊らせる。
しばらく描くと、ぴたりと筆を止めた。それに気がついたのか、ラックも筆を止め、ゆっくり彼女に向き直る。
「私には、まだあなたみたいな絵を描けません。それだけの個性がありません。色がありません」
「だから」と言って、彼女はラックをまっすぐ見つめた。
「__だから、私にあなたの世界を歩かせてください。あなたのキャンバスの色を、私の色にしたいんです」
背後には、儚い絵があった。
小さな船着場の風景画。朝日の昇る早朝、澄んだ空気、透き通る水面。そして、立った一隻の小船。
それは、ラックが描いた風景画によく似ていた。だが、彼の絵には及ばない、いわゆる儚いだけの絵だった。
だが、それを見て、ラックは頬を緩ませた。穏やかな笑みで__まるで、彼の絵の中にある優しさそのものみたいな笑顔で、満足そうに言った。
「__はは。いいぜ、合格だ」
少女のキャンバスは、今日から染まり始めた。
□□□
「__これで、完成かな」
ソメイロアトリエの作業場に、一人の女性がいた。
黒のスリムパンツに、白シャツを着て、背筋を伸ばしてキャンバスに筆を走らせている。
長い白の長髪は後ろで一つに束ね、その白い肌はまくった袖から露出している。
「さて、先生に見せに行かなくちゃ」
筆を置いて、軽く伸びをしてから席をたつ。
「先生〜!どこいますか〜!まさか、またタバコですかぁぁぁ!?ただでさえ小さい頭の血行を、これ以上悪くするつもりですか〜!?」
アトリエの扉の隙間から叫ぶが、応答はない。
「ここまで煽って出てこないとは……やっぱり外だな。まぁ、どうせあそこにいるでしょ」
そう言って、その女性はアトリエを出て行った。そして、誰もいない静寂がアトリエを包む。だからだろうか、アトリエの奥に、一つのキャンバスが残っているのが際立って見える。
彼女のいた作業場だ。
___そのキャンバスには、非常に美しい絵が描かれていた。
机の上に、小さな炎を灯したランタンの絵。その炎は、とてもはっきりと描かれていて、目を惹かれるものがある。そして、よく見るとそのランタンの淡い光に照らされた机には、何やら川の風景画のようなものがうっすらと浮かんでいた。
その絵は、儚く、淡く、しかし力強かった。太い線で描かれていて、絵の繊細さと力強さが混ざり合っている。
近くに置いてあったタイトルには、こう書かれてあった。
__『染まれ』
そうして彼女のキャンバスは、今日初めて、自分色に染まり切った。
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