結局、君には敵わない

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結局、君には敵わない

「圭吾と結婚するかも」 日曜日の昼さがり、由香に呼び出された駅前のカフェで、不意に彼女がそう言った 「へぇ・・・そっか」 気が聞いた事が言えなかったのは、気が動転していたから。 飲みかけのアイスコーヒーのストローを回して氷がカランカランと音を立てた 「誠・・・・止めないの?」 彼女がそう言うから余計気が動転してアイスコーヒーを零しそうになった 「止めるって・・・なんで?」 「ねえ、私が圭吾と幸せになっても本当にいいの?」 「い、いいに決まってるだろ?ふたりとも大切な幼なじみで大切な友達だし」 そう言うと、自分の中の何かがきゅーっと締め付けられた 由香と圭吾とは所謂幼なじみで小さい頃からいつも3人一緒だった 何かあれば3人で遊んだし、この2人といると毎日が楽しかった 圭吾はとにかく優しくて柔らかくて。顔も頭もいいけど、ひけらかすことはなくて。誰も圭吾を嫌う人はいなかった。 由香は頭の回転が良くて、性格はサバサバしていた。 白黒ハッキリつけたくて、その上きつい性格だから敵は作りやすいけど、言っていることはいつも間違っていなかった。 優柔不断ではっきりしない僕がいじめられそうになった時は 必ず助けてくれたっけ。 言い方は強いけど、言葉には優しさが隠れてる。 曲がったことが嫌いで凛とした正義感のあるかっこよくてそんな由香を尊敬していた。 そんな全く違う性格の3人が、絶妙なバランスだったのか、 ずっと仲良しだった。 3人で仲良く居られれば、ずっとこのままでいい。 いつの間にか芽生えた『恋』という感情には気づかない振りをして そう自分に言い聞かせていた。 そんな気持ちとは裏腹に、だんだん気持ちが隠せないくらい大きくなってきた時 『私、圭吾のこと好きなの。男として。ねぇ誠、圭吾に告白してもいい?』 由香が俺にそう言ってきたのは半年前だった。 「いいんじゃない?自由だし」 本当は良くなんてなかった。 3人で仲良くいれたら、恋という感情を抑えられた。 でも、2人が付き合ってしまえば、俺は・・・・ それから2人がどうなったかは知らなかった。 知りたくなかったし、由香も告白してどうなったか言わなかったから。 どこかで2人はくっついてはいない そう思いたかったから、聞けなかった 「圭吾と結婚するかも」 今日その一言で全てを知る 驚き 悲しみ そして好きだという気持ちを自覚する でも、もう遅いし、僕には告白する勇気は無かった。 「ねぇ、いいの?ずっと隠したままで」 由香が俺に詰め寄った 「このまま圭吾と結婚できたとしても、誠に勝てた気がしない」 「え?」 「ずっと恋のライバルなはずなのに、不戦勝で勝っても嬉しくない」 「由香?それってどういう」 「圭吾も圭吾よ。告白OKしたくせに、心ここに在らずだし。 付き合ってたって他の人に心奪われてたんじゃこっちもたまったもんじゃないわ」 「由香、意味がわからない」 「はぁ・・・結婚するかもなんて嘘よ。それどころか別れたわよ。半年付き合ってみたけど私の事1度も女として見てなかったもの。手しか繋がなかった。わたしは結局幼なじみ以上にはなれなかったの。 圭吾も誠もお互いしか見えてないくせに・・・・あんた達いい加減にしなさいよ!」 「由香?」 「もうそろそろ素直になりなさいよ。なににビビってんのよ。好きなら世間の目とか、私の事とか理由にすんじゃないわよ。私はずっとあんたがライバルだと思ってたのに、戦いもしないで私に勝ったままなんて。そんなの卑怯よ」 「由香・・・・それって」 「ちゃんと自分の気持ちぶつけなさいよ。私は、どんな事があってもあんた達の幼なじみで親友なんだから。」 「由香・・・・ありがとう」 「もう、世話のやけるライバル!」 そうして由香の強烈な後押しにより、僕は圭吾に告白した 今までまさか圭吾が、男の僕を受け入れてくれるなんて思っていなかったけど、圭吾は僕を受け入れてくれて それから数年を経て、僕達はパートナーシップを結んだ 綺麗で強くて凛とした彼女 もし僕が彼女だったなら、好きな男の好きな相手の背中をわざわざ押して告白させたりしないだろう。 だから結局君には適わないんだ 「全部私のおかげねっ」 そう自信満々に言う彼女を目の前に、俺たちはアイスコーヒーを飲みながら笑いあった
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