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「おいで……」
俺が声をかけても、フミは小さな頭を左右に振って、決して俺の手を取ろうとはしなかった。
今にも泣き出しそうな瞳は確実に俺を求めて揺れているのに、フミが選んだのは血縁のある実の母親だった。
フミと離れたあとも、俺はたった数年だけ家族になれた小さな女の子のことが忘れられなかった。
フミは梨花さんの元でちゃんとした生活が送れているのだろうか。自分がしたいと思うことをちゃんとできているだろうか。
事あるごとにフミのことが思い出されて、いつも気がかりだった。
だから俺の勤めているクリニックのあるビル内でフミと再会したときは、運命の巡り合わせだと思った。
そんなフミと、紆余曲折あって付き合うことになった俺は、十四年ぶりにフミの母親――、梨花さんと会うことになった。
ホテルのカフェで。俺の父と俺、フミ、梨花さんの四人で。
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