十.

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十.

三体の造製人間は、当選者が設定した通りの人格を持ち、完璧な生きた人間として暮らしていた。 しかしある日、そのうちの一体の当選者が重い病を(わずら)い、健気(けなげ)な妻として設定されていた造製人間はその病を治そうと、ネットや書籍であらゆる医療知識を学んだ上で、街へ出て、必要な臓器を生きた人間から『強盗』し始めたのだ。 造製人間欲しさに多発していた『身体部位強盗事件』は捕まらぬような小細工を(ともな)っていたが、こちらはそういった思慮(しりょ)が欠損していたらしく、犯行は白昼堂々目撃者多数の街中で幾度も()され、警察も世間も早々に犯人に辿(たど)り着いた。 激しい格闘を含む一悶着(ひともんちゃく)の末にその造製人間は確保され、その過程でクラフラサイトやプラントの存在も発覚し、牽連(けんれん)して他の二体の造製人間も平穏に保護されたのであった。 が、造製人間はその特殊な身体を維持するためにプラント産の特殊なサプリを必要としていた。 長い時間をかけてプラントを調査しその事に気が付いたのは、(すで)に三体とも原因不明の多臓器不全と身体腐食によって死亡した一ヶ月後だった。 「せっかく完璧な体に整えたのに……特にこの心臓……」 女が指先で(あらわ)な胸元を()でる。 「心臓……? まさか……」 (りん)の妹、(まい)は、『身体部位強盗事件』の被害者の一人だった。 異常なる造製人間を求め異常なる凶行を繰り返していた、(まい)の心臓と命を奪った犯人は、(りん)の手で手錠をかけた。 だが奪われた心臓は、クラフラ事件の全容が明らかになる過程で、あらゆる場所、あらゆる可能性をどれほど虱潰(しらみつぶ)しに探しても、見付からなかった。 (まい)の心臓の筋肉は、幼い頃に医療機関で撮影した際、その見た目にも明らかに、生まれつきとても大きく強靭(きょうじん)だった。 ゆえに周囲から、将来世界を駆ける一流アスリートになると期待されていたのだ。 たったの十四年で、その心臓を『強盗』されこの世を去るまでは。 「お前……! そこを動くなよ!」 唇を噛み締めた(りん)が、女の元へと駆け出した。
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