三.

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三.

数日後、朝。 墓石に手を合わせる(りん)(さとる)の姿があった。 「妹ちゃん、二回目の命日、か」 「ごめんね、(まい)。 あんたの心臓、まだ見付かってない。 でも、もしかしたら今回のが関係あるかも知れない。 行ってくる」 (りん)は力強く目を開いた。 乗り込んだ車内で(りん)は数冊の分厚いファイルを開く。 この信じ難いSF小説のような調書をもう何度読み返しただろうか。 『クラウド・フランケンシュタイン事件』、通称クラフラ。 元は、天才医学博士、ヤン・ミュラーによる次世代再生医療ビジネス計画であった。 それ自体は革新的で世間が待ち望み称賛されるべきものだったのだが、医学と同時に工学・経営学などもマスターし少々変わり者だった博士は、その計画をたったの一人で実現しようとした。 まず博士は、人里離れた深い山を一つ買い付けた。 そしてそこに、最先端量子コンピュータAI制御による、巨大な無人臓器管理プラントを建造した。 建物、機器、システム等々、それぞれの業者や専門家にネット経由で依頼し、完璧なる設計図と指示書と代金をネット経由で送り、その場にただの一度も博士が立ち会うことも無く、皆がお互いに関わる余地も無いままに、それは完成した。 「何度読んでもにわかには信じ(がた)い」 「俺も二年前にプラント捜査で中央制御システムに入ったけど、既存じゃない独自のプログラミングで全部構築されてて、十人がかりでも解読するのに一年半かかったよ。 天才過ぎるぜ、あの博士」 「あの世でさぞかし()やんでいるだろうな」 そう、ヤン博士はプラント完成以降の数々の事件を何も知らない。 完成したプラントに向かう途中、自らの運転する車が雪に(すべ)り、(がけ)から落ちて亡くなったのだ。 家族や友人の一人も持たなかった彼の死は、雪解けの時期まで知られることも無かった。
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