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五.
博士の死後、既に稼働していたプラントは、しばらく平穏な運転をしていた。
合法的に提供された臓器や細胞の一部を、遺伝子を含め分子レベルまで解析し、機能不全を解消し、完璧な状態に培養し成長し直して保管する。
もしくは依頼者の求める身体部位を人工的に合成して製造する。
他者間の臓器等移植の際にどうしても問題となる適合問題は、博士のオリジナル、誰にでも応用可能な身体部位を作製する『無制限誘導技術』が解決していた。
が、博士の死により諸々の手配が滞り、やがて届くはずの身体部位等が届かなくなり、プラントAIは困り果て思案に暮れ、三十六時間後、導き出した答を実行した。
『髪の毛一本から投資OK!
人類の未来のためにあなたの身体の一部をご提供下さい!
抽選で、提供された身体部位を組み合わせた造製人間をプレゼント!
お好みの人格を設定できます!』
AIはそんな謳い文句の闇サイト『クラウド・フランケンシュタイン』、通称クラフラを開設し、クラウド・ファンディングと同様の手法で、お金では無く人間の身体部位を集め始めたのだ。
こんな馬鹿げたジョークのようなサイトだったが、一部で流行った。
殺した遺体の処理に困った犯罪者、のみならず、面白半分で髪の毛や爪の先などを送る若者、己の身体部位を捧げることにある種の浄化や救いを抱く者。
そしてこの時はまだ警察は真相に辿り着いていなかったが、俗に『身体部位強盗事件』と称された、造製人間欲しさに他人を襲い身体の一部を盗み去る、傷害、傷害致死、もしくは殺人及び遺体損壊事件が多発して世間を震撼させた。
状況は混沌とし解決に至らぬまま、やがて一年余りが過ぎた頃、ついに、造製人間なるものを切望した、理想の恋人が欲しい、または亡き妻を蘇らせたい、あるいは異常なる欲求を満たすための人形を求めた、三人の元へと、本当に生きた造製人間が届けられたのであった。
「これがその培養槽だけど、やっぱり全部空っぽだぜ」
サッカーグランド程の広大な空間に、数段重なり三次元的に整然と並ぶ大小幾万のガラス槽は、すべて蓋が開けられ中の身体部位も培養液も抜かれ、虚しく乾燥し、僅かな薬品臭を放っているのみだった。
この隣りには手術室があり、AIがこちらの培養槽から選別した身体部位を組み合わせて完全機械制御で生きた人間を作り出したと言うが、
「まさしくフランケンシュタイン、マジSFかよ」
悟は苦笑いを浮かべた。
「だがSFはいつか現実になる。
想定外の問題を孕んでな」
と凛が睨んだ手術室の方向から、ふいに音も無く、非常灯の薄闇を切り裂き数本のロボットアームが二人めがけて一直線に伸びてきた。
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