若きに真髄

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 老いた男はその潤しい肌に囚われている。罪とも言いたいその芸術にどう触れていいのやら、この醜い指紋一つですら付着してしまうのは惜しい。この衣服一つとっても邪魔だ。布団の上で捩れ動く彼女をこんな淫らな姿にしたかったのではない。けれども私にはどうすることもできないのだ。自ら脱ぐ若きその身体に手を出してしまっては、私の中の悪魔が黙っていない。そうだ、淫らになってしまうのは私の方なのだ。彼女の裸はどれだけ恥ずかしい格好をしようが、美しいでしかない。私はとうに失ってしまいました。気づくのがあまりにも遅かった。若きは尊いと、何故当時は知り得ないものか。  誰の足跡もついていない砂漠のような腹から、膨らみだした思春期の乳房を人差し指でなぞるように撫でた。未熟な桜桃のような小さな突起に到達すると、囁くほどの小声で喘ぎを漏らして腰を反り小さく跳ねた。 「もっと教えて、そんなのじゃ嫌」  そう言う少女にもう既に教えてしまったのではないだろうか。愛撫や挿入などしていなくても、この老いた指は触れてしまったのだから、所有していない宝石に素手で触れるほどはしたないことはない。ならば罪人は罪人らしく、夢でも見ているかのように生きてみるしかない。 「私を愛せるか?」 「愛すわ」  もはや心中だ。擬愛心中とでも名付けようか。掠れた少女の声が果てない水平線に手招きするから、無知の愛らしさは恐ろしい。  だが私は、この指先で少女の唇を割って入ることが精一杯だった。若き美しさに似合う光景は夜を肌で包む瞬間ではない。私こそ、無垢な者に教えるのは老いた吐息じゃない。  翌朝の寝起き顔に眩しい日差しがよく似合うように、何気ない一瞬の光景も若き故尊いものを魅せるということを聞かせなければ、私も人間ではなくなってしまうかもしれない。  大人の階段という言葉があるのだから、踏み込む勇気を胸に抱いて見上げている若き視線の先に立っている大人は、涙をも美しく魅せる悪魔を見せない天使でいなくては。けれど悲しむなかれ、少年を忘れた私よ。少年に化けて地団駄を踏めばいい。袖から伸びる白い肌にエロスを学んだら書けばいい。そうして生きてみたい。  甘い香りを仕舞い、老いた者に戻った私は数秒前で間違いなく少年だった気がする。若き白い肌にエロスを感じた心は思春期のように幼い。 「愛すって言ったのに」  むっと膨れる表情も幼い。 「冗談だよ、試しただけさ」 「なによそれ」  真っ直ぐ見つめるその瞳は勿体ない。そんな目をするから、君に愛してるなんて言葉はまだ早い。その無垢な瞳に写るのは私が良かったけれど、押し殺して抑えるしかない。 「愛してるは将来使いなさい。今はまだ、好き、で伝わるはずだから」 「違いがわかんない」  意外とほとんどのことが知らない方が純白で美しいのかもしれない。純白でいられないから最も恐ろしいのは黒ではなく白なのだ。
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