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「こっちの緑は、辻利って京都のね、お抹茶と白餡を合わせた抹茶餡で、ピンク色の方はさくら餡を使っているんです。珍しいでしょう?」
「そう、ですね……」
女性の言葉にたどたどしく相槌を打つ。
緑色と言えば枝豆を使ったずんだ餡や、緑豆を使ったうぐいす餡が有名だ。抹茶餡もないわけではないが、こういう使い方は珍しいのではないだろうか。
「お抹茶は、いまがシーズンなんです」
「え?」
「抹茶の新茶は11月頃に出るんです。だからちょうどいま時期が旬なんですよ」
ふっくらとした頬が微笑みを携えて揺れる。
尚斗はもう一度、ショーケースの中を覗き込んだ。
和紙貼りの商品ポップに書かれた〝期間限定おはぎ〟の七文字。
その横には、陶器でできた兎の置物がディスプレイされていた。
「クリスマスまでの期間限定発売で、翌年の干支とコラボしているんです。干支イラストつき絵馬の根付がつくんですよ」
言うなり女性店員がカウンター下に視線をさげ、小さな袋に入ったキーホルダーのようなものを取り出した。袋越しに、チリンと鈴の音が響く。
「来年の干支はうさぎなので、うさぎのイラストなんです」
「かっ、……あ、いや、へぇ、そんなのがついてくるんですね」
口をついて「可愛い」と出かかった言葉を飲み込んで、尚斗はショーケースの上に置かれた根付をまじまじと見つめた。
紅白の雪うさぎが描かれた絵馬に赤い紐の根付、ピンク色の鈴がついている。
「贈り物にも喜ばれますよ」
女性店員はそう言うとニッコリと微笑んだ。
「あの、日持ちってどのくらい……」
おずおずと尋ねる。
和菓子はどら焼きや羊羹など日持ちするものも多くある一方で、生になると当日限りと全く日持ちしないものも多く、判断が難しい。
せめてたった一日でも持ってくれれば──。
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