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「書くモンもあった方がいいか……」
筆記具のコーナーへ行くと、ショーウィンドウに飾られた万年筆が目に入った。
万年筆なんて、自分たちよりもっと上の世代が使うものだと思っていた時期もある。
だが、こうして飾られているのを見ると、なんとも言い表しようのない魅力を感じるもので。
本当に高級な物は数十万単位だと聞いたこともあるが、ここではそこまでの高級品は扱っていないようで、多機能文具よりほんの少しだけ高価ぐらいの値段で買えそうなものから取り揃えられている。
(このコバルトブルーのやついいな……これにしようか)
蓋と胴の部分がコバルトブルーに染められた万年筆。蓋についているクリップは金色で蔦柄の装飾が施してある。インクがついている初心者向けのモデルらしい。
ディスプレイの下にある引き出しを開け、値札を見ながら同じ型番の在庫を見つけると一箱手に取った。
レジ列に並び、会計を済ませてサービスカウンターへ向かうと、ラッピングを依頼する。そのタイミングでダウンのポケットに入れていたスマホが着信を伝えて震えた。
メッセージ一件──相手は泰正だった。
居処を尋ねる旨のメッセージに「サービスカウンターにいる」と簡素な一文を送り返す。程なくして、尚斗の元に泰正がやってきた。お目当ての手帳は買えたらしい。
「いいのあったの?」
「今年使っている手帳と同じものがあったからそれにしたよ。今年のは抜群に使いやすくてね、出来たら来年の分も同じものが良いって思っていたから」
「そっか」
「月冴君のプレゼントは決まったのかい?」
「うん、便箋と万年筆にした。アイツ、筆まめだから」
「そうかい、気に入るものが見つかって良かった」
ラッピングされた品物を受け取り、店を後にする。
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